お子さんが不登校になりやすい時期というものはあるのでしょうか。
不登校は、様々な背景・要因が絡み合っておきるものですので、「一概にこれが原因だ」「この時期になりやすい」などとは言い切れないものです。
しかしながら、行事や長期休みなどが不登校のきっかけのひとつになるようなことはあると考えられます。
例えば、長期の休み明けというものは一つ重要な時期であると考えます。大人でいえば「しばらくゆったり過ごしていた休みの日」から「仕事がある生活リズムに戻る」ことです。大人であっても休み明けに仕事に行くのが憂鬱なこともあるものですよね。
それはお子さんにとっても同じですし、特にもともと学校に行くことでしんどいことが待っているお子さんにとってはしんどい環境に戻るわけですから、休み明けに学校に行くのはさらに気が重く感じることは無理もないことだと考えられます。
また、悲しいことにお子さんの自殺は、過去約40年間のデータによると夏休み明けの9月1日に最も多くなるという数値が出ています。自らの命を絶つくらいに学校に戻ることが辛い子がいるのが現状です。そう考えると、実際には命を絶っていなくても、それくらいの辛さを抱えながら学校に通っているお子さんもいる可能性を私たちは忘れてはならないでしょう。
(*出典1)文部科学省|18歳以下の日別自殺者数
今回は、夏休みなど長期休暇明けなどの節目の時期と不登校について気を付けておきたい点について解説していきます。学校によっては、9月1日よりも前に夏休みが明ける学校もあるかと思いますので「長期休み明け」という観点でご覧ください。
夏休み明けは不登校が増える?
文科省のデータなどを探してみましたが、夏休み明けに不登校が増えるというデータは見当たりませんでした。
そもそも、文部科学省が定義する不登校は「何らかの 心理的、情緒的、身体的あるいは社会的要因・背景により、 登校しないあるいはしたくともできない状況にあるために年間 30日以上欠席した者のうち、病気や経済的な理由による者を 除いたもの」とされています。
細かい話ですが、この定義によれば、30日間の欠席が夏休み前から始まっているということになりますので、夏休みが始まる前にすでに休みが続いていて、休み明けにも投稿していない状況が続いているとするところだと思うと「夏休み明けに不登校が増える」というのは、関連が説明しづらいかもしれません。
しかし、夏休み前に「学校を休みたい」という気持ちがありつつもなんとか学校へ行っていたような場合には、夏休みを一度挟んだことで、また再び学校に登校することに踏み出せなくなってしまうようなこともあるかと思います。また、夏休み前に登校しぶりや何日か休んでいたような場合は、不登校のサインであることもあるかもしれません。
こうした点も踏まえて、夏休み明けにお子さんがプレッシャーに感じやすいいくつかのポイントを考えていきたいと思います。
夏休み前のトラブルなどを引きずってしまう
夏休み前に起きたトラブルなどは、休暇に入ることで一旦遠ざかりますが、始業が迫るにつれそれを思い出し、プレッシャーに感じるということはあると思います。
特に人間関係のトラブルが解決していない場合、また学校に行くことでトラブルに巻き込まれてしまうと恐れを感じることなどもあるでしょう。
生活リズムを戻す必要がある
長期休暇の間は、通学の為に決まった時間に起きる必要もないため、夜更かしをするなどで生活リズムを崩してしまう人もいます。大人も休み前に夜更かしをしてしまうことはありますので、一概に夜更かしが悪いわけではありません。しかし、学校が始まっても朝起きられないようになってしまうほどの夜更かしは要注意です。
不登校の統計データを見ると、不登校の児童や生徒のうち、生活リズムの乱れを理由に挙げている人の割合は以下の通りで、決して侮れません。休みの終わりが近づき始めたら、学校が始まった生活リズムを意識したいところです。
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小・中学生:28,749人/244,940人(11.7%)
高校生:7,610人/50,985人(14.9%)
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生活リズムの乱れによる不登校については以下の記事で解説していますので合わせてご参照ください。
長期休み明けはお子さんが不安定になりやすい?
文部科学省から出されている資料の中で、以下のようなコメントを出しています。
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学校の長期休業の休み明けの直後は、児童生徒にとって生活環境等が大きくかわる契機になりやすく、大きなプレッシャーや精神的動揺が生じやすいと考えられる。このような時期に着目し、彼らの変化を把握し、学校や地域、あるいは家庭において、児童生徒への見守りの強化や、児童生徒向けの相談や講演等の対応を集中的に行うことは効果的であろう。
(*出典1)文部科学省|18歳以下の日別自殺者数
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夏休み明けと明記はないものの、長期休業の休み明け直後はお子さんが不安定になりやすい傾向があるようです。
学校生活において、長期休業は夏休み以外にもあります。それぞれ気を付けるポイントについて見ていきたいと思います。
長期休業明けに注意しておきたいポイントとは?
ここからは、以下の岐阜県総合教育センターの資料を参考に学校生活における長期休業前後の注意しておきたいポイントについて紹介していきます。
(*出典2)岐阜県総合教育センター|節目となる時期における不登校対策指導資料
ゴールデンウィーク(4月~5月)前後のポイントについて
ゴールデンウィークは、新学年がスタートしてから最初の連休です。新学年という大きな環境変化があるため、お子さんの心身の配慮も必要な時期といえるでしょう。
ゴールデンウィークの付近の時期は、新しい環境に慣れてきて楽しく過ごせているお子さんもいれば、まだ慣れないでいるお子さんも珍しくない時期です。
指導資料の「特に配慮を要する児童生徒」によると、以下の傾向があるお子さんの様子は注意深く見ておく必要があるとされます。
- 4月に欠席が目立ったり、新しい学級の中で孤立がちだった生徒
- 4月からずっと欠席している生徒
- 前年度、連休明けに欠席が続いたことのある生徒
- 前年度、不登校傾向だったが、年度が変わってから登校している生徒
まだ慣れないと感じているお子さんや、新しい環境が嫌だと感じているお子さんにとっては、連休はやっと一息つける時間になっている場合もあります。しかし、一息ついたことで、また再びしんどい状況に立ち上がるのが苦しいことも同時に起こり得ます。
4月は新学年・新生活のスタートとなり、お子さんにとって変化の大きいタイミングです。
学校によってはクラス替えなどがあり、これまで慣れ親しんでいたクラスメイトと離れて人間関係が新しく始まるということもあるでしょう。その意味では、弱音を吐きたくなる時期でもあることを、ぜひわかってあげてほしいところです。
夏休み前後のポイントについて
夏休みという節目の時期について、配慮すべきお子さんの像としては、以下が挙げられています。
- 1学期に欠席が目立った
- 4月から欠席が続いており、引きこもりがちな生徒
- 前年度、夏休み明けに欠席が続いた生徒
- 前年度、不登校傾向だったが、年度が変わり4月から登校するようになった生徒
- 夏休みの宿題が手つかず
学校生活の中でも夏休みは最も長い休みであることが多く、お子さん達は休みモードから心を切り替えて登校に臨むことになります。
部活動などをしているお子さんの場合は、夏休み中も学校へ行ったり、同級生との交流があることもありますが、そうでないお子さんもいるでしょう。
しかし、1学期に不登校傾向が見られたり、勉強の遅れ等があったりとお子さんの心に何かしらの引っかかりがある場合、長い休み明けの登校は大きな負荷がかかる可能性があります。
冬休み前後のポイントについて
冬休みの時期は、進学・進路・進級などについて考えがちなタイミングでもあります。
受験生などは、受験が間近に迫っており、勉学にプレッシャーを感じるお子さんも多くなりがちなタイミングです。
配慮すべきお子さんの像としては以下が挙げられています。
- 2学期中に欠席が目立った生徒
- 2学期中に不登校・不登校傾向だった生徒
- 進学や進路に不安を抱えている生徒
- 勉強に困難を抱えている生徒
冬休みはクリスマスや年末年始等のイベントも多くなる時期で、一時的に学校以外に意識が向きやすいタイミングといえます。
そこから登校時期が迫ってきたタイミングで、意識を大きく変化させなければいけないことで、精神的に不安定になるというお子さんもいるかもしれません。
休み明けに「学校に行きたくない」と言われたら?
お子さんが不登校・不登校傾向の場合、まずは心身を休めることに注力すべきといえます。不登校の背景には様々な要因があり、お子さんは疲弊したり、傷ついている可能性があるからです。
しかし、学校にいきたくないと言われたら「馬鹿なこと言わないで、いいから学校行きなさい」と促す人も少なくはないかと思います。
登校を強要せずお子さんの意思を尊重する意識を
休み明けに「学校に行きたくない」とお子さんから打ち明けられた時に「夏休みでもう十分休んだんだから、最初くらいちゃんと学校に行きなさい」などと登校を強制したり促してしまうことはその通りではあると思うのですが、時にそのことがお子さんに強い負荷をかけてしまう場合があります。
また「学校に行きたくない」と直接的な表現をせずに「もっと休みたい」「宿題やってないから怠い」など婉曲的な表現をする可能性もあります。特に、宿題が終わってないから学校にいかないという言い方をするお子さんもいます。
宿題が終わっていないと言われると「宿題が終わったら行きなさい」「宿題が終わってなくてもいいから行きなさい」と声をかけがちです。しかし、宿題が終わっていないかどうかが問題ではない場合は、そこが本質ではないこともあるわけです。
お子さんから発信されたメッセージについて、コミュニケーションを取りながら真意を探していくことで、適切な対応を取ることができるかもしれませんので留意することが望ましいといえるでしょう。
不登校・不登校傾向の背景には様々な要因があるため、一概に何が正しい対応とは言い切れません。
お子さんが学校に行きたくないという意思を示した場合には、まずはその気持ちに十分に耳を傾けてみましょう。気持ちを受け止めてくれたことで、一旦落ち着いて学校には足を運ぶお子さんもいます。その上で、何か問題解決が必要なのか、それとも休息が必要なのか、どんなことであれば取り組めそうか、など、できることを整理するようなことができると良いのではないかと思うところです。
(*出典3)カウンセリングルームクローバー|2学期初めの子どもの心理は、とても不安定
【まとめ】
夏休みや長い休み明けに不登校が増えるという明確なデータはないものの、「長期休暇」を挟むことは、学校生活では変化の大きい節目の時期ということで、注意が必要です。
実際に、長期休み明けの登校しぶりなどについては、様々な資料なども出されています。そういった面からも長い休み明けは一定数不登校が増え始めるタイミングとして、学校も注意深く見ているといえるでしょう。
ご家庭でも、長期休みの終わり前のお子さんが学校が再開することにどんな反応を示しているか、そして、休み明けのお子さんの様子はどうであるかなどには気を配り、普段と変わった様子や、なんとなく気分が落ち込んでいるように見えないかなど留意しておく必要があるといえそうです。
不登校は問題行動ではなく、何かしらの問題が潜んでいるサインであったり、その問題からお子さんが心身を休めるために一時的に学校に行かない状態であるということが言われます。
変化の大きな節目の時期に負担が大きくなるのは自然なことです。もし、長期休暇あけにお子さんが登校を渋るような様子がみられた場合には、その渋る様子の裏でどんなことを考えているかについて耳を傾けたり、実際に何か登校しぶりの背景に問題があるようであれば、お子さんの心身を第一にしつつ、とにかく登校をするのだ、と強要することはせずどうしていくのかをお子さんと一緒に考えていくような姿勢を大事にしていきましょう。
【出典一覧】
*1 文部科学省|18歳以下の日別自殺者数
参考箇所:冒頭
*2 岐阜県総合教育センター|節目となる時期における不登校対策指導資料
参考箇所:長期休業明けに注意しておきたいポイントとは?
*3 カウンセリングルームクローバー|2学期初めの子どもの心理は、とても不安定
参考箇所:休み明けに「学校に行きたくない」と言われたら?
【監修者のコメント】
長期休み明けは1年間の中でも、心が不安定になりやすいという傾向が伺えます。
この時期の声の掛け方によって、子どもの気持ちを追い込んでしまうこともあるので注意が必要です。学校に行くことについて不安や悩みがあった場合には、長期休み前にそのことを話す機会はどの程度持てていたでしょうか。
長期休み前に不安や悩みの片鱗が見えていた場合もあれば、休みの終盤になって様子がおかしかったり、休み明けの始業式に登校を渋るなど、お子さんによって様々かと思います。
不登校に関連している要因について、家庭内で話ができていたり、その問題について解決の目星や安心の確保が持てていればいいのですが、そうではない場合に「夏休みはもう十分休んだんだから、ちゃんと学校にいきなさい」と登校を促すことは、お子さんにとっては「悩みをわかってもらえない」「言ってもどうせ聞いてもらえない」と、どんどん心を閉ざしてしまうことにもつながりかねません。
特に、学校に行きたくない理由の背景に、いじめなどの深刻な問題がある場合は、お子さんを不安と恐怖の中に送り出すことにつながります。
休ませることについて、癖がついてしまうと心配になる保護者の方の気持ちも理解できるところではあるのですが、長期休み明けは特に行きたくない気持ちなどに寄り添ってみるのも大事です。
「学校に行きたくない」「だるい」と言いながらも、結局は学校にいく、という子もいれば、実際に休んでしまう子もいるものです。どちらの状況なのかの見極めは難しいところですが、行きたくないと愚痴を言いながらも学校に行けることも実は大事もであります。
その意味では、まずは「行きたくない」という愚痴をしっかりと吐き出せる関係性を大事にしながら、お子さんが自分の話を保護者が聞いてくれる、と感じられるような関わりを大事にしていきましょう。愚痴を言いながらもやることはやるというバランス感も大事なものだと思います。
大きな問題がない場合は、早めの登校を心がけることで休みの長期化を防ぐこともできます。もし、行きしぶりが悪化したり、関わりが難しい場合にはカウンセラーなどの専門家と一緒に対策を検討することもぜひ考えてみてください。