不登校のお子さんをお持ちの保護者の方は、お子さんのコミュニケーション能力に何か問題があるのではないか、と悩むことが多いのではないでしょうか。
不登校の原因として、よくコミュニケーション能力があげられます。しかし、不登校のお子さん全員がコミュニケーションに問題があるわけではありません。
この記事では、そもそもコミュニケーション能力とはなにか、不登校とコミュニケーション能力の関連性、コミュニケーション能力を高める方法などを紹介します。
不登校のお子さんのコミュニケーション能力で悩んでいる方は、ぜひ最後までご覧ください。
コミュニケーション能力とは
コミュニケーションとは、「対人間での情報共有や意思の疎通」のことです。コミュニケーション能力は、コミュニケーションをスムーズに行うことができる力を指します。
コミュニケーションは双方向のものなので、コミュニケーション能力は1つのスキルだけで構成されているわけではありません。
例えば、初対面の人と楽しく話せる人はコミュニケーション能力が高いとされています。
しかし、よく話すタイプではなくても、相手の気持ちを察するのが上手な人や聞き上手な人も、コミュニケーション能力が高いと言えます。
コミュニケーションが苦手だと思っている方も、1つの要素が苦手なだけで、総合的に見ると得意なこともあるかもしれません。
不登校の子はコミュニケーション能力が高くない?
不登校の原因は「コミュニケーション能力に問題があるから」だと思っている方は多いのではないでしょうか。
もちろんコミュニケーション能力の高低も不登校の一因にはなりますが、お子さんが不登校だからといって、必ずしもコミュニケーションが苦手なわけではありません。
ここでは、不登校とコミュニケーション能力の関連性について説明していきます。
不登校のお子さんは学校生活スキルが高くない
一般に不登校のお子さんは、学校生活スキルが高くないとされています。
学校生活スキルを構成するものは、「自己学習スキル」「集団活動スキル」「健康維持スキル」「コミュニケーションスキル」などです。
各スキルの具体的な内容は以下の通りです。
- 自己学習スキル:家で机に向かって勉強するなど、個人の学習を行うためのスキル
- 集団活動スキル:自分の順番を待てるなど、集団活動を行うためのスキル
- 健康維持スキル:からだの調子がおかしいときにそれを伝えられるなど、健康を維持するためのスキル
- コミュニケーションスキル:友達に自分の考えを打ち明けられる、相談できるなど、友人や異性とコミュニケーションをとるためのスキル
これら学校生活スキルのいずれかが低いことが、不登校の原因になると考えられています。
(*出典1) 中学進学に伴う不登校傾向の変化と学校生活スキルとの関連
必ずしもコミュニケーション能力が低いわけではない
不登校の原因は、学校生活スキルのいずれかに問題があるためなので、必ずしもコミュニケーション能力にあるわけではありません。
例えば、遊びや非行に関連する不登校傾向では、「コミュニケーションスキル」「集団活動スキル」ではなく、「自己学習スキル」や「健康維持スキル」に有意な差が認められています。
コミュニケーションスキルが関与する不登校傾向は多いですが、他の可能性もあると知っておくとよいでしょう。
コミュニケーション能力に起因する不登校の特徴
特にコミュニケーションスキルが関連すると考えられる不登校の傾向は中学生に多く見られ、何らかの精神・身体症状を伴います。
具体的には、自分から友達と関わろうとしないことにより学校内で孤立してしまうほか、相手を気遣うことができずクラスメイトとトラブルになったり、先生に反抗的な態度で接してしまったりする様子が見られます。そういった行動は、お子さんの自尊感情の低下やストレスにつながります。
中学校以降では、自分の気持ちに共感してもらったり、悩みに対するアドバイスをもらうといった社会的なサポートの提供者が家族から友人中心に変化していきます。そのため、コミュニケーションスキルが高くないと、十分なサポートが受けにくいと考えられています。
また、集団活動スキルが不登校の原因となっている場合は、在宅や別室登校を希望するお子さんもいます。
次に説明するように、集団活動スキルもコミュニケーション能力の一部に含まれます。
そのため、集団活動スキルの不足に起因する不登校の場合は、コミュニケーション能力を高める練習をするとよいでしょう。
コミュニケーション能力には6つの要素がある
先程述べたように、コミュニケーション能力は複数の要素で構成されています。
コミュニケーション能力を構成するスキルの分け方は多数提唱されていますが、この記事では「ENDCOREモデル」をもとに説明します。
「ENDCOREモデル」ではコミュニケーション能力は6つの要素に分けられます。
1. 自己統制
自己統制は、自分の感情をうまくコントロールするスキルです。衝動や欲求を抑えたり、善悪の判断に基づいた行動をすることが当てはまります。
また、まわりの期待に基づいた振る舞いをすることも、自己統制の1つです。
2. 表現力
表現力は、自分の考えや気持ちをうまく表現するスキルです。表現方法は、言葉・しぐさ・表情など複数あります。
3. 解読力
解読力は、相手の考えや気持ちを正しく読み取るスキルです。表現と同様に、言葉だけでなく、相手のしぐさや表情に気を配ることが必要です。
相手の心理状態を敏感に感じ取れる人は、解読力が高いと言えます。
4. 自己主張
自己主張は、自分の意見を相手に受け入れてもらえるように主張するスキルです。
自己主張をするには、会話の主導権を握ること・まわりに合わせることなく自分の意見を主張できることが必要になります。
そのうえで、相手に柔軟に対応して話を進める・論理的に筋道を立てて説明できると、相手の納得を得やすいでしょう。
5. 他受容
他受容は、相手の意見や立場を尊重して、受け入れる能力です。相手の気持ちを共感し、理解することが重要になります。
友好的な態度で相手に接するというのも、他受容のスキルの1つです。
6. 関係調整
関係調整は、周囲の人間関係が良好な状態になるように調整するスキルです。1〜5のスキルと違い、自分と相手の関係だけでなく、他者同士のつながりにはたらきかける必要があります。
関係調整のスキルでまず大事なことは、人間関係を第一に考えて行動すること・良好な関係を維持するよう心がけることです。
意見や感情の対立による不和に対処できれば、関係調整のスキルは高いと言えます。
(*出典2) コミュニケーション・スキルの実践的研究に向けたENDCOREモデルの実証的・概念的検討
不登校の子のコミュニケーション能力を高める方法4選
コミュニケーション能力は、練習によって高めることができます。コミュニケーション能力には複数の要素があるので、お子さんが苦手そうだと感じる部分を特に練習するとよいでしょう。ここでは、コミュニケーション能力を高める4つの方法をご紹介します。
表現の仕方、受け取り方を説明する
まずは、相手の表現を理解する方法を言葉で説明します。コミュニケーションにおいて、相手の気持ちを読み取る・自分の意思を伝えることは必須の能力です。
表現の仕方は言葉だけでなく、しぐさや表情・口調・視線などさまざまあります。
相手のどんなところを見ればいいか(表情や口調など)、基本的な表現方法(笑顔、明るい声など)をポイントに、相手の気持ちを読み取る練習をしてみましょう。
受け取り方がわかれば、自己表現の方法は全く同じです。相手に受け取ってもらえるように、表現する練習もしてみましょう。
お子さんの話をさえぎらない
相手の話を聞くときの姿勢を、お手本となって見せるようにしましょう。
相手の目を見て聞く・相槌をうつなど、人の話をしっかり聞くことを保護者の方が実践することが大切です。逆に、お子さんが話をさえぎったときは、話を最後まで聞くように教えましょう。
また、お子さんは話すことで、自分の考えや経験を言語化する力が身に付きます。これは表現の練習にもなるので、たくさんお子さんと話すとよいでしょう。
テレビやアニメから学ぶ
テレビやアニメは、コミュニケーションのモデルとなります。実際にどうやって表現するのか、相手はそれをどう受け取っているのかを知る機会になるので、お子さんの良い勉強になるでしょう。
もちろん、良い例だけではないと思うので、適切ではない表現があれば「これはよくない伝え方だよ」など、保護者の方がフォローしてあげてください。
いろいろな人と交流してみる
コミュニケーション能力を高めるには、実践が一番です。保護者の方との会話や勉強を通して、コミュニケーションの方法を学べたら、他の人とも交流してみましょう。
フリースクールなど不登校のお子さんが集まる場所もあるので、お子さんの意思を尊重しながら、交流の場に行ってみるとよいでしょう。
まとめ
この記事では、そもそもコミュニケーション能力とはなにか、不登校とコミュニケーション能力の関連性、コミュニケーション能力を高める方法などを解説しました。
不登校のお子さんはコミュニケーション能力が高くないことが多いですが、全員がそうではありません。コミュニケーションが苦手な場合、心身の不調を訴えたり、別室登校や在宅を希望するお子さんが多いです。
コミュニケーション能力には複数の要素があります。コミュニケーションが苦手と思っているお子さんでも、実は得意な部分があるかもしれません。
お子さんのコミュニケーション能力を高めたいときは、お子さんの苦手を把握して、練習を積んであげることが大切です。この記事の内容を参考に、ぜひ実践してみてください。
【出典一覧】
*1 中学進学に伴う不登校傾向の変化と学校生活スキルとの関連
参考箇所:研究の結果と考察
*2 コミュニケーション・スキルの実践的研究に向けたENDCOREモデルの実証的・概念的検討
参考箇所:問題と目的