現代の学校現場における不登校児童・生徒の数は年々増加しています。文部科学省のデータによると、小中学校における長期欠席者は全国で41万人にのぼり、その内約25万人が不登校の児童です。また、高等学校での長期欠席者は約12万人で、不登校生徒は5万人と報告されています。*1 これは、小中学校に属する児童・生徒に対する2.6%で、高等学校に属する生徒の1.7%に当たります。
昨今の状況を鑑みると不登校に悩む児童・生徒には、教員生活の中で必ず出会うことになると思います。学校の先生として素晴らしいキャリアをスタートさせた若手の先生方に、不登校という実態について正しく理解してもらいたいと思い記事にしました。記事の後半では不登校を経験した方のお話を紹介しています。この記事で紹介させていただいている内容を踏まえて、対応方法の”引き出し”の一助になればと思っております。
不登校になる理由は様々
不登校の原因は本当にさまざまで、複雑な要因が絡まっていることが多いです。そのため、原因を一つに特定することは大変難しく、そのうえ本人たちが思っている原因も核心をついているのか定かではないことがあります。
特に最近の不登校の理由は、小中学生に加え高校生についても”無気力・不安”が最も多い割合を占めています。”無気力・不安”は一過性な感情のように考えてしまいますが、不透明な部分が大きいため、理解するには一つ一つ丁寧に紐解いていく必要があると言えます。
また、これらのデータは文部科学省が公表しているものになりますが、文部科学省が調査したものとその他の団体が調査したデータとでは異なる回答が見られる傾向にあります。
NHKの調査結果によると不登校の原因には”学校”が関係する割合が多く挙げられています。調査結果の解離については、文部科学省も認識しているところだと思いますが、現場の先生方についてもこの現状を知っていただきたいと思います。*2
その中でも”無気力・不安”を不登校の理由にする児童・生徒は学校に関わる大小さまざまな出来事に左右されてしまい、学校に気持ちが向かわなくなってしまっていると考えられます。
”無気力・不安”に悩む子どもが考えていること
では、彼等はどんな悩みを抱えているのでしょうか?
不登校を経験した方々は、どんな悩みを抱えていてどう感じていたのか。
体験談をベースに紹介していきたいと思います。
実際の体験談
・長期休み(春休み・夏休みなど)を挟むと、何だか気持ちが学校に向かなくなってしまった。別に学校に行きたくない理由があるわけじゃないのに。(S.Hさん)
・勉強が得意だと思っていたが、高学年になるにつれわからないところが増えていき、自分自身に自信がなくなってしまった。勉強が好きなことと得意なことをイコールに考え過ぎてしまっていたと思う。(20代男性)
・中学受験を見据えて、勉強を頑張っていたけど上手く成績が上がらなかった。周囲の期待に応えられているか不安になってしまった。(20代女性)
一見、気に留める必要のない出来事だったり、普段生活していると接するような出来事であっても、その人々で感じ方は違います。こういったストレスを”学校”という場で感じることが多いと、言わずともその場所から遠ざかってしまうものです。
近年、5人に1人の割合でHSC(Highly Sensitive Child)と呼ばれる子どもが存在すると言われています。これは、アメリカの心理学者であるエレイン・N・アーロン氏が提唱した「感覚や人の気持ちに敏感で傷つきやすい子ども」のことで、彼らはひといちばい敏感な感覚を持っています。例えば、集団遊びの輪に加わることにも慣れてしまうまでに時間がかかってしまいます。HSC側の立場に立って考えてみると、学校のような場所は疲れ切ってしまうことは言うまでもないでしょう。一部の児童・生徒はこれらの特徴を持っている可能性もあることを知っておくと良いと思います。
保護者にも寄り添うことが大切
普段、保護者は不登校の悩みを抱えるお子さんと向き合いながら、保護者自身も悩み苦しんでいます。不登校の解決へとサポートするためには、保護者のメンタルを気にかけることも欠かせません。
まずは、以下に保護者の体験談をまとめてみました。
保護者の不登校に関する体験談
・自分の子どもが不登校になった時は驚いてしまい本当にどうすればいいかわかりませんでした。ただ、本人も悩んでいることは感じとれたので、いつも通り接することを意識していたと思います。(40代主婦)
・本人になにを聞いても「わからない」と言うばかりで、現状を理解することが難しかったことをよく覚えています。我が子なりに色々と考えていたと思います。なので、子どもの考えを否定しないように、認めてあげることを意識しました。(40代夫婦)
体験談からわかるように保護者は、”親”という立場で悩んでいるのです。子どもの考えていることを汲み取って理解してあげたいという思いから、空回りしてしまうことも少なくありません。
そんな保護者が頼りたい相手先の一つとして、”学校”があります。保護者が考えている心配事は、”勉強について行けるだろうか””学校の出席日数はどうなるのだろうか”と言ったものから、”学校には通わせてあげたいけど何か良い方法はないだろうか”など多様な悩みを持たれています。これらの想いに対して、学校の先生としてできることを紹介したいと思います。
保護者対応で考慮してほしいこと
まずは先にも述べたとおり、保護者の方も不安だったり心配だったりと色々な想いを抱えていることを理解しましょう。その上で、保護者の方の対応で考慮してほしいことをまとめましたので、参考にしていただければと思います。
・何か学校で出来事があった時には、児童・生徒から情報が伝わる前に、保護者に連絡をするように心がける。
・連絡帳で伝える内容と電話や直接会って会話すべき内容を見極める。
・保護者の方の意見を聞き取る。
ここで気を付けてほしいことがあります。「時間」というのは、先生にとっても保護者にとっても大切であることです。先生ご自身がお一人で解決できないような問題がある場合、周囲の信頼できる先輩方に相談するようにしましょう。
時間をかけ過ぎてしまうと不安感や不信感を煽ってしまいかねません。また、保護者の話を丁寧に聴いてあげることと聴きすぎてしまうことは全く違うことですので、理解するようにしておくといいでしょう。
先輩の先生方は色々な対応の”引き出し”を持たれていますので、解決の糸口がきっと見つかるはずです。
不登校経験者の体験談 ”学校や先生の対応で嬉しかったこと”
最後に、不登校を経験された方々が学校の対応や先生からしてもらったことで嬉しかったことをまとめています。これらは必ずしも当てはまるものではありませんが、不登校を経験された方々の貴重な意見ですのでぜひ参考にしていただければと思います。
不登校経験者が学校や先生の対応で嬉しかった体験談
・当時担任だった先生から「学校に行けないことは悪いことじゃないよ」と言われたことで、すごく安心したことを覚えています。学校に行けないことで”罪悪感”を感じていた自分には、すごく気が楽になる言葉でした。(20代男性)
・担任の先生を通して、学校側から”出席日数に関すること””保健室登校に関すること””学校外で相談できる場所”を案内してもらいました。自分たちだけでは限界なところもあり、聞きにくい内容を先に教えていただけて良かったです。(40代夫婦)
・「行きたい時と行きたくない時の波って自分では感じ取りにくいよね」と言われたことです。国語の先生で授業している様子からはわかりませんでしたが、学生の頃に先生も学校に行きたくない時期があったそうで、勇気が出ました。(20代女性)
まとめ
今回取り上げた内容について文部科学省の不登校に関する主な施策の中に、”学校・家庭・地域社会の連携 “という事柄が書かれています。今や学校現場の課題は、学校の先生だけで解決できるものだけではありません。フリースクールや地域の相談所など学校や学校の先生として協力を要請できる相手先もあることを理解していただければと思います。*3,4
先生ならではの難しい課題にこれから向き合っていく先生方にとって、この記事が少しでも役に立つことを切に願っています。
【出典一覧】