近年、不登校の児童生徒は増加傾向で、社会課題の1つとなっています。
文部科学省の調査結果によると、令和3年度の小中学校の不登校児童生徒数は、過去最多の24万4,940人という数字が出されています。
不登校の児童や生徒の数が増えているということは、不登校の児童や生徒の保護者の数も増えていると考えることができます。
不登校の背景には、様々な要因があるため、万人に共通の不登校の対応や支援があるわけでも、共通の正解があるわけでもありません。
当事者であるお子さん自身が苦しんでいることもあるかと思いますが、保護者の方も「どうしていいかわからない」「自分の関わり方がよくなかったんだろうか」と心苦しい思いをしている方もいらっしゃるかと思います。
今回は、不登校のお子さんを持つ保護者に焦点を当てて、保護者の方の心算などについて紹介していきます。
(*出典1)文部科学省|令和3年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について
不登校の考え方
まず、近年は認識が増えてきていますが、不登校は親の育て方が間違っていたとか、お子さん自身の個人的な責任による問題行動ではないとされます。
お子さんが不登校や不登校傾向の状態にある際、「このまま休んでいたら戻れなくなるんじゃないかという心配」や「将来は大丈夫なのだろうか」「学校に行けるようにできることを何とかしたい」などと思うのは自然なことです。
しかし、「北風と太陽」の話にもあるように、保護者が「こうさせたい」と思う方向に導こうとすると、かえって反発を強めることもあります。
保護者が子どものためになんとかしなくてはいけないと頑張りすぎたりすることで保護者自身が疲弊してしまったり、お子さんのことを腫れ物に触るように気を使うことで、家の中がピリピリと緊張状態にあったり、学校に行くと子どもがいうので期待を持っていたら朝になると結局いけないような状況が続くと、がっかりしてしまうこともあります。
そして、この状況を作り出してしまったのは自分自身の関わり方がよくなかったのだと自分を責めてしまうようなことも珍しくありません。そして、そのような保護者の感情の波があることや、疲れている様子などをお子さんはよくみています。
保護者が大変そうにしているのを見ると、学校に行かなくてはいけないという気持ちを強めたり、結局は学校にいけていない自分が悪いんだと罪悪感を高めるなど、保護者の様子が負担となるような影響を与えてしまうこともあります。
お子さんのことを思って試行錯誤していることが、お子さんにプレッシャーになってしまうのは、保護者の方としても本意ではないかと思います。
いまはオンラインのフリースクールや通信制高校など様々なものが登場し、勉強や進学のサポートも増えています。今所属している学校に戻れないからといって、将来が潰えてしまうことはありません。
複数の選択肢の中から、お子さんにとって少しでも良い選択肢を検討することも可能です。また、複数の選択肢があるということを認識することで、元の学校に行くことを考える場合もあります。
不登校は「とにかく今の学校に戻らなくてはいけない」という選択肢が狭められてしまう中で、気持ちが追い込まれてしまうことも少なくありません。保護者の方にも、このまま学校にいけなかったらどうなってしまうんだろうと焦っている方も多いので、複数の選択肢があるということをまずは保護者の方が認識しておいてくださることは大切です。
まずは保護者の方自身が落ち着きを取り戻して、お子さんが安心して家で過ごせるよう、おおらかに捉えていけることを考えてみましょう。
不登校で保護者の心が疲れてしまう要因は?
お子さんが不登校になると、保護者としては心配が尽きないでしょう。
勉強や将来のこと、何が原因なのかわからないことへの焦りなど、想像に難くありません。
お子さんが不登校になった際に、保護者の悩みに繋がりがちなことについて紹介をしたいと思います。
何とかしようと頑張りすぎてしまう
お子さんが不登校になった際、学校との連携や、専門機関のサポートを受ける、勉強が遅れないよう民間のフリースクールなどの情報収集を行うなど、様々な対応に追われるということがあります。インターネットでさまざま情報を検索したり、書籍を読んでみたりする方も少なくないかと思います。
お子さんの状況を何とかしていこうするあまり、仕事や趣味の時間を減らしたりする方も少なくはなく、時間的にも精神的にもお子さんの不登校が占める割合が増えていきます。
それを1人で全てを抱えてこんでしまうと、保護者の方も疲れてしまうことがあります。頑張りすぎると、その分これだけの時間を費やしているのにと報われないような気持ちになったり改善されないように感じたりして、苛立ってしまうことも付随して起きてしまいがちです。
極端にお子さんに気を使ってしまう
不登校・不登校傾向にあるお子さんは、なんらかの要因により一時的に学校へ行かずに心身を休めている状態といえます。
その要因としては様々なものがありますが、いずれにしてもお子さんが疲れてしまっていたり、傷ついていることは少なくないと考えられます。
そのような状況であることから、保護者の方としても家庭内では傷つかないようにしようと考えて、「子どもにどう声をかけたらいいのか」「余計に傷つける発言をしてしまわないか」など心配をした結果、気を使いすぎてしまうという人もいるかもしれません。
保護者にとっても本来家庭は安心して一息付けるはずの場所でもあるので、自宅で緊張状態にあると、保護者自身が疲弊してしまうこともあるかもしれません。
傷つかないように気持ちや身体を休めることは重要ですが、家で娯楽やおやつなどが無制限に楽しめて、やりたくないことはやらなくていいという環境を用意することは、休むこととは少し違います。
嫌なことを全て拒否してそれがまかり通る環境になってしまうと、誤学習が生じてしまう可能性もあります。お子さんにとって嫌なものを排除していく環境を作成するというよりは、嫌な気持ちがあることを受け止めつつ、どうしていくと嫌なことに対峙ができそうか、とか、少しずつクリアしていくにはどういうステップが踏めそうかなどを一緒に考えていくようなことも大切です。
多くの時間で不登校について悩んでしまう
お子さんが不登校になると、勉強の遅れや進学、将来への影響など、先のことについても悩んでしまうことがあると思います。
お子さんが不登校・不登校傾向にあるということで、悩みが尽きないというのはある種当然のことともいえるでしょう。
不登校について悩むということは、お子さんと一緒にいるとき以外でも考えてしまうことが多いことかと思います。
寝る前にこれからのことを考えてしまうと不安になったり、外出時に同年代の子どもを見かけると複雑な気持ちになってしまったり、仕事をされている方であれば、先々のことなどを考えると仕事に集中できなくなってしまうこともあったり、家にいるお子さんに電話をかけて状況を確認したりすることもあるでしょう。
「本当なら学校で給食を食べているはずなのに」と思いながら、お昼ご飯を用意される方もいるのではないかと思います。
そのように1日中不登校について悩んでしまい、精神的に疲弊してしまうという方も少なくはないでしょう。
また、不登校の初期段階では、世間体や引け目を感じたりすることで、家庭全体が社会から孤立することもあるという研究もあります。
そうなると、保護者も誰かに相談するということが難しくなり、一人で抱え込んで、だんだんと心が疲れていってしまうかもしれません。
(*出典2)中地展生(帝塚山大学心理学部心理学科)|不登校児の親グループの発展段階に応じたファシリテーション
不登校初期のお子さんの保護者の気持ちは?
小児保健研究が行った調査結果を見ると、不登校を持つ保護者のよくある悩みと心構えについての参考になる部分があります。
※この調査は、「不登校が始まって1カ月の保護者について、当時の気持ちと自助グループに参加してからの1年後の変化」についてまとめられています。
不登校が始まって1カ月のお子さんを持つ保護者の方が、「よくあった」と答える傾向にあったものは以下の通りです。
- なぜうちの子が・・・とそればかり考える
- このまま学校に行けなかったらと不安
- 早く学校に復帰してほしいと考える
- 子どもの不登校は自分の育て方に責任がある
- 同じような経験をした人の話をもっとききたい
- 世間の目が気になる
- 学校に行っている子どもと比較してしまう
不登校初期は、現状に対しての不安や悩み、他の子どもとの比較など、気持ちが外向きになっていることが伺えます。
自助グループに参加してから1年後の変化
その後、自助グループに参加し、1年後に「よくあった」と回答している項目は以下の通りです。
- こうなったからにはあわてても仕方がないと思う
- 子どもを一人の個人として認識できる
- 人生は長いのであせらないで大丈夫
- 不登校に関して夫(妻)と協力して対応している
- このことがきっとこの子の人生の役に立つと思う
- 子どもの不登校が家族の繋がりを深くした
- 子どもの不登校が自分の友だちを作ってくれた
- 子どもの不登校によって自分自身が成長した
- 自分自身の人生も大切にしたい
1年後には、このような変化が見られており、中にはポジティブな内容について高い数値となっているものも見られます。
不登校になってから1カ月ほどの初期段階で、スコアが高かったネガティブな項目については、自助グループへの参加を挟んだ1年後には、低い数値となり、保護者の心境に良い変化が起きたことが見受けられます。
中には、お子さんが不登校になったことで「家族の絆が深まる」「自分が成長する」など家族や自分自身との関係を見つめなおすきっかけにもなったという回答も見られます。不登校の背景には様々な要因が個々にある場合が多いです。
また、事象として起きている不登校の背景に本来の生きづらさなどがある場合もあります。
「不登校」という一つの出来事をきっかけに、お子さん自身にあるしんどさに気づくことができ、対応を考えることができた結果として、障壁となっていたものを取り除くことができたり、つまづきを解消したり、もの考え方や生き方、物の見方などをより自分にあった形に調整ができたことで、自分の成長に繋がったたりすることはあるでしょう。
また、不登校という過程を共にたたかったことで、家族の絆が深まったと感じられることもあったのではないかと考えられます。それらの過程は決して楽ではなかったと思いますし、傷つくこともあったのではないかと考えられます。
そうした苦労や傷つきを乗り越えたり、回復する中で得られる成長もあったのかもしれません。だからと言って、不要な苦労や傷つきを肯定するわけではないですが、傷つきや苦労、嫌なことをなくして生活をしていくこともあまり現実的ではありません。
苦労や傷つきがあった場合に、どのように超えていくか、そして、それを誰かと協働していくことで、超えていけるようになるという経験が、今後困難にぶつかった時に乗り越えるヒントになることもあるのではないかと思います。
現在、不登校について苦しんでいるお子さんも、保護者もいるかもしれません。しかし、この研究のように自助グループに参加したり、専門機関で適切な支援を受けることで、不登校の捉え直しができたり、考え方が変わることで、保護者の心持ちが楽になることもあるようです。一人で抱え込まず、専門機関や同じ境遇を持つ保護者の団体などに相談してみるのがいいでしょう。
(*出典3)小児保健研究|不登校児を持つ親の自助グループ活動が母親の意識と子どもに及ぼす影響
親の態度がお子さんにも影響する
この調査結果を見ると、お子さんの不登校が始まると、ほとんどの保護者はショックや不安を感じるといっても過言ではないでしょう。
また、その具体的な内容としては「子どもの将来への不安」「自らの罪悪感」などが見られるといいます。
お子さんが不登校になるということは、何らかの事情で苦しんでいる可能性が高く、そのような様子を見て保護者の方も辛い思いをするというのは自然なことでしょう。
しかしながら、この調査の中の「母親の安定と子どもの安定」という項目では以下のような内容が報告されています。
母親の記述回答からも「とても落ち着いて日々生活しています。私自身が落ち着くと,子どもも落ち着くということを実感しています」,「学校に現在登校していないが,家で元気に暮らしています。子どもに私が『学校に行かなくていい』と言ってから徐々に明るくなりました」という記述が見られた。
保護者の方の気持ちの浮き沈みと、お子さんの調子が連動しているようなことは少なくありません。その意味でも、保護者の方がいかに自分自身の落ち着きを維持できるかという点は重要です。
この回答のように、不登校については無理に復帰を焦ったり、行動するのではなく、まずはお子さんが家では安心して過ごせているかどうかを確認しながら、穏やかに過ごせるよう努めるところを初期段階では特に意識しておくと良いかもしれません。
不登校の期間は個人差もありますが、長引く場合もあります。一時的に負荷がかかる生活をすることは耐えることもできても、その負荷を長期的に続けると無理が祟ることもあります。
「持続可能」という言葉を耳にすることが多い昨今ですが、維持できる生活スタイルを考えることも重要です。特に、保護者の方は我慢も多くなってしまいがちなので、自分の仕事の時間は確保することや、趣味の時間を持つ、一人で一息つける時間を持つなど、ご自身の生き方を維持することやケアを行う時間も大切にしてください。
そのためには、第三者の力を借りることも一つの選択肢です。「当事者の会」や「自助グループ」は都道府県などの単位でも存在しています。
まずはネットで検索するなどして、近くのエリアの団体に問い合わせてみるのも良いかと思います。
(*出典3)小児保健研究|不登校児を持つ親の自助グループ活動が母親の意識と子どもに及ぼす影響
【まとめ】
今回は、不登校のお子さんを持つ保護者の方に向けて、不登校初期のよくある悩みや、自助グループに参加して1年後の心境の変化などをご紹介しました。
不登校はすぐに解決しようとするほど、焦りやプレッシャーからお子さん自身の負担が強まってしまい、余計に頑なになってしまうような悪循環に陥りがちです。
まずは一旦落ち着いて、専門機関などに支援を頼ったり、同じ境遇・経験を持つ保護者に相談してみたりして、様々な視点があることに触れてみるのもひとつでしょう。
不登校について「大事な時間だった」と思うことは難しいかもしれませんが、長い目で見た時に必要なことであったと答える人もいます。
自分の身を守る意味で必要な手段であったと答える人もいます。
今目の前で不登校の状態があることで焦ることもあるかと思いますが、長い目でみてお子さんが「自分の人生を生きている」と思えるためのきっかけであるという視点もイメージをしてみてください。そして、実際にそうした契機となるように、お子さんとの過ごし方、そして、ご自身の過ごし方を考えていきましょう。
【出典一覧】
*1 文部科学省|令和3年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について
参考箇所:冒頭
*2 中地展生(帝塚山大学心理学部心理学科)|不登校児の親グループの発展段階に応じたファシリテーション
参考箇所:多くの時間で不登校について悩んでしまう
*3 小児保健研究|不登校児を持つ親の自助グループ活動が母親の意識と子どもに及ぼす影響
参考箇所:不登校初期のお子さんの保護者の気持ちは?
【監修者コメント】
不登校の場合、お子さんとのやりとりや学校とのやりとり、役に立ちそうな情報収集をしたり、学校外の機関に足を運んだりなど、保護者の方が多くの時間を割いている様子が伺えます。
特に、不登校の初期の段階は、突然の出来事にどうしていいのかわからない気持ちがあったり、先々の不安が生じたり、どのように子どもと接するのが正解だろうかと、多くの悩みや不安が生じやすい時期でもあります。本文の中でも紹介があったような考えが頭に浮かぶことは決しておかしなことではありません。
不登校が問題行動ではないという背景には、不登校という行動の裏には何かしらの理由があり、そこから身を守ったりするためにそうせざるを得ない場合などもあります。そんなことは頭でわかりつつも、それでも学校にいって欲しいという気持ちが頭をよぎることもあると思います。そんな葛藤を抱えながら、万人に共通の正解がない試行錯誤をしていくのは、なかなかしんどいことでもあると思います。
文科省「令和2年度不登校児童生徒実態調査」によると「学校を休んでいる間の気持ち」については、お子さんは「ほっとした・楽な気持ちだった」(小学生70%、中学生69%)、「自由な時間が増えてうれしかった」(小学生66%、中学生66%)が一定の割合を占めています。もちろん、一方で勉強や周囲への遅れの心配などを答えている子どもたちも少なくはありません。
したがって、不登校の状態の時は「ほっとできる安心感」と「先々の不安」などが入り混じることが考えられます。複数の感情が入り混じった状態にいるお子さんに関わる中で、保護者の方も様々な感情に揺さぶられることがあるかと思います。