不登校になる理由は、人間関係の悩みや授業スタイルが合わないことなど様々だと思います。
そんなときに知っておきたいのが、「今の学校に通い続ける」「無理に全日制の学校に進学する」「学校をやめる」という以外に、「通信制高校」に通うという選択肢があることです。
「何とかして普通の学校に…」と思う保護者の方もいるかもしれませんが、その選択が必ずしもお子さんの将来にとって最善の選択とは限りません。
この記事では、不登校のお子さんに通信制高校がオススメできる理由と、通信制高校の注意点について解説します。
通信制高校とは?
はじめに通信制高校の概要や全日制高校や定時制高校との違いを解説します。
通信制高校の定義
通信制高等学校は、学校教育法第4条により「通信による教育を行う課程」と規定された高等学校通信制課程のことを指しています。
毎日学校に通う代わりに、生徒は自宅での学習が必要になります。通信教育の手法はさまざまですが、郵送やテレビ、インターネットを通じた添削指導が主な教育です。加えて、年に数回「スクーリング」と呼ばれる対面の面接指導を実施することが原則です。さらに、試験が行われる場合もあり、個々の生徒の学習状況はしっかりと評価されます。
通信制過程を設置する高校は、現在全国に257校あり、在籍する生徒は200,000人以上というデータも出ています。
増加する不登校生徒や学びの多様化に対応すべく、通信制高校については文部科学省も注視していることが伺えます。
(*出典1)文部科学省|高等学校通信教育の質の確保・向上
(*出典2)文部科学省|高等学校通信教育の現状について
通信制高校の仕組み
通信制高校は、学習のスタイルは異なりますが、全日制・定時制高校と同じ高校として分類されています。
全日制・定時制高校では、生徒は学校で授業を受けます。全日制高校は、3年次を修了すれば卒業資格が得られる学校がほとんどです。
一方で通信制高校では、単位を取得することで卒業資格が得られます。
生徒は基本的に自宅で学習に取り組みます。レポートやテストを学校に送ることで単位取得が可能です。
このように、学習の方法は通信制高校と全日制で大きく異なります。しかし、いずれの学校を卒業しても「高卒資格」を取得することができるのは同じです。
各教科・科目の添削指導の回数、面接指導の単位時間の標準は、下のように定められています。ただし、指導の手法に応じて規定は変動する場合もあります。
各教科・科目等 | 添削指導(回) | 面接指導(単位時間) |
国語、地理歴史、公民及び数 学に属する科目 | 3 | 1 |
理科に属する科目 | 3 | 4 |
保健体育に属する科目 のうち「体育」 | 1 | 5 |
保健体育に属する科目 のうち「保健」 | 3 | 1 |
芸術及び外国語に属する科目 | 3 | 4 |
家庭及び情報に属する科目並 びに専門教科・科目 | 各教科・科目の必 要に応じて2~3 | 各教科・科目の必 要に応じて2~8 |
自分のライフスタイルに応じて学習を進めることができるのが、通信制高校の一番の特徴です。そのため、通信制高校には年齢も職業もさまざまな人が在籍しています。
たとえば、働きながら高卒資格の取得を目指す人もいれば、発達障害や不登校により通信制高校を選択する人もいます。また、スポーツや芸能活動など、学業以外の活動で忙しい人も通信制高校に通うことがあるようです。
このように、通信制高校は何らかの事情があり全日制・定時制高校に通うことが難しい人が高卒資格を目指して勉強するのに最適な場所だと言えるでしょう。
不登校のお子さんに適している
不登校の定義については、以下の記事で解説しています。
通信制高校の生徒は、学校に毎日通う必要がなく、自分のライフスタイルに合わせて学習を進めることができます。
周りの目を気にすることなく自分のペースで高卒資格を目指せるのは、不登校のお子さんにも適した環境です。
2017年度では、一度高校を中退して「別の高校または同じ学校の別の学科」に編入した6,107人のうち、76.7%(4,682人)が通信制高校を選択しています。
この数の多さからも、不登校のお子さんに通信制高校が合っていると考えるご家庭が多いことが伺えますね。
(*出典3)文部科学省|平成29年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について
通信制高校のメリット
通信制高校には、全日制・定時制高校にはないメリットがたくさんあります。
ぜひ、通信制高校への進学を決める際の参考にしてください。
不登校という概念からの解放
通信制高校には不登校がありません。
というのも、通信制高校では「毎日の登校」が必要ないので、そもそも「不登校」という概念がないということです。
もちろん、不登校に伴う出席日数不足や留年の心配もいりません。
これが、何らかの事情で登校・通学が難しいお子さんに、通信制高校が選ばれる理由の一つです。
ただし、「スクーリング」の際は通学して対面による面接指導を受ける必要がある点には注意しましょう。
柔軟に自分のペースで学習できる
通信制高校では、学習を自宅で、自分のペースで進められます。
不登校の理由として、全日制の授業スタイル・ペース・内容などが合わなかったお子さんもいるでしょう。
そのようなお子さんにとって、集団授業や授業進度に囚われることなく、柔軟に学習をできる点は、通信制高校ならではのメリットと言えます。
また、自学自習が得意なお子さんは自由な時間が増えるため、アルバイトに励んだり、大学受験の対策を進めたりと、より効率的に時間を活用できる可能性もあります。
学習の支援体制
通信制高校は、対面での指導が少ない分、自学自習が必要なので、中にはうまく学習を進められない生徒もいます。
そのような生徒のために、各教科・科目毎に添削指導の回数と面接指導の単位時間を定め、生徒一人ひとりに合わせた学習と十分な学習時間を確保できるような仕組みとなっています。
また、様々な背景を持つお子さんに対応できるよう、国の経費を用いて特色ある通信制高校を創っていくプログラムも考案されています。
(*出典4)文部科学省|通信制過程の教育方法や学習支援体制の検討にあたっての議論のポイント
社会的な関わり
人との関わりを調整できるのも、通信制高校が選ばれる理由です。
人とのコミュニケーションや全日制学校のクラス制などに抵抗や息苦しさを感じたことで、不登校となったお子さんもいるでしょう。
通信制高校では毎日登校する必要が無く、人との関わりを減らす最低限に抑えられるのがメリットです。
規定のスクーリング日以外は、登校日数やカリキュラムを調節できる学校も多いので、お子さんに合ったスタイルを見つけていきましょう。
通信制高校からの大学進学も可能
「通信制高校からの大学進学は不利」という印象を持たれる方もいるかもしれませんが、通信制高校に通ったことで、大学進学で不利になることはありません。
もちろん、志望大学に合わせた入念な対策は必要ですが、それは通信制高校に限ったことではなく、全日制高校でも同じです。
学校と勉強や進路の相談を行い、場合によっては塾や家庭教師を利用しながら、お子さんに合った勉強法で受験対策を進めていきましょう。
不登校のお子さんの大学進学に関しては以下の記事で詳しく解説しています。
▶不登校でも大学受験はできる?入学資格、受験勉強のポイント、保護者ができることを解説!
通信制高校に通う前に知りたい注意点
通信制高校には、数々のメリットがある一方で、注意点もあります。
ここでは、通信制高校に通う前に知っておくべき注意点を解説します。
自学自習の必要性
通信制高校の「自分のペースで学習できる」という点は、もちろんメリットではありますが、裏を返せば「自分で勉強を進めなければならない」という注意点もあります。
自学自習を進め、規定の添削課題をこなせなければ、単位は取得できません。
不登校の理由が「勉強習慣がついていない」ことだったお子さんは、特に注意が必要です。
学校によってスクーリングの日数は異なり、学校と相談してスクーリングを増やせる場合もあるので、お子さんの勉強法に合った学校やスクーリング日数を見つけることが重要です。
学習の手助けとして学習塾や家庭教師を利用するのも効果的な対策でしょう。
また、「サポート校」という通信制高校生を支援する教室もあります。
サポート校では各通信制高校のカリキュラムに合わせて、講師やカウンセラーが学習計画の作成や添削課題のフォローなどを行ってもらえます。
中には大学受験の対策を行っている教室もあるので、大学進学を目指すお子さんにもオススメです。
社会的な繋がりの希薄化に注意
人間関係に苦しんだお子さんにとって、「人との関わりを減らせる」通信制高校はとても安心できる環境かもしれません。
しかし、日が経つにつれて他人との触れ合いの少なさに寂しさや孤独感を覚える可能性もあります。
卒業後の進学や就職などを見据えると、すぐにとは言いませんが、お子さんの負担にならない範囲で、少しずつ人と関わる機会を増やしていけるとよいでしょう。
具体的な方法としては、「スクーリングの日数を増やす」「学校行事に参加する」などが考えられます(スクーリング日数の変更や学校行事の有無は、学校ごとに異なります)。
お子さんが「通う日数を増やしてもいいかな」「行事に参加してみようかな」と思えたなら、後押しして見守ってあげましょう。
卒業後の進路に関して
通信制高校は、全日制高校や定時制高校と比較して、卒業後の進路が明確でない生徒が多いです。
「ライバルがいなくて受験勉強に熱が入らない」「卒業後も通学・出勤が難しい」など理由は様々なようです。
必ずしも進路を決めておく必要はないので、過度に不安になることはありませんが、お子さんの興味や関心をうまく引き出してあげられると、卒業後の進路も決めやすくなると思います。
また、学校や塾などでも進路を決めるサポートをしてくれると思うので、あらかじめ進路を決めておきたい場合は、積極的に相談することをオススメします。
(*出典5)文部科学省|令和4年度 学校基本調査
まとめ
通信制高校は、不登校のお子さんにとって様々なメリットがあります。
通信制高校を選ぶことで、お子さんの悩みを緩和しつつ、高校に通うことができるかもしれません。
新たな選択肢として、ぜひお子さんと相談しながら検討してみてください。
【出典一覧】
*1 文部科学省|高等学校通信教育の質の確保・向上
参考箇所:通信高校の定義
*2 文部科学省|高等学校通信教育の現状について
参考箇所:通信高校の定義
*3 文部科学省|平成29年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について
参考箇所:不登校のお子さんに適している
*4 文部科学省|通信制過程の教育方法や学習支援体制の検討にあたっての議論のポイント
参考箇所:学習の支援体制
*5 文部科学省|令和4年度 学校基本調査
参考箇所:卒業後の進路に関して