不登校が急増している今、お子さんの教室復帰へのステップとなる「別室登校」という言葉を聞いたことのある保護者も増えているのではないでしょうか?
「別室登校ってどんな仕組み?」
「別室登校から教室復帰はどう進めるの?」
本記事では、不登校や行き渋りをしているお子さんを持つ保護者に向けて、「別室登校」の概要や役割、メリット・デメリット、また別室登校から教室復帰へのステップについても詳しく解説していきます。
ぜひ、お子さんの教室復帰の参考にしてくださいね。
別室登校とは?
別室登校とは、主に不登校や行き渋りをしているお子さん、また学習障がいを持つお子さんが、学校内の自分の教室とは異なる部屋で学習を行う取り組みのことです。
別室登校に使われる部屋の例としては、保健室や相談室、学校図書館などがあります。
不登校の増加に伴い、別室登校の需要も高まる
文部科学省が公表した令和4年度の調査結果(*出典1)によると、不登校児童生徒数は約29万9千人と、前年度から5万4千人が増加し、過去最多となりました。
日中を教室で過ごせない不登校のお子さんにとって、自分の教室に代わる「居場所」の必要性が高まっています。
そこで、「教室には入れないけれど学校には行ける」というお子さんや、「再登校を目指すにあたって、急に教室に行くのはハードルが高いので、徐々に教室復帰を目指したい」と考えるお子さんたちの居場所となる「別室登校」の需要も増えています。
別室登校中はどんな生活を送るの?
別室登校には、決まったカリキュラムはありません。お子さんの状態に合わせて内容が考えられるため、取り組む内容はさまざまです。
別室登校では、時間のある先生が交代でお子さんを見守り、自習をすることが多いでしょう。
教室で学習している単元を教えられる先生が見守るときには、授業内容を教えてもらえることもありますが、常に指導を受けられるわけではありません。
その他、図工や美術などの課題制作や読書、先生との会話、先生のお手伝い、スクールカウンセラーのカウンセリングなどの活動があります。
また、下校時間が決まっておらず、好きな時間に自由に帰宅できることも別室登校の特徴です。
毎日決まった時間まで学校にいなくても「出席扱い」となり、お子さんが自分の調子に合わせて登校できます。
母子分離不安のある子お子さんが別室登校をする場合、保護者と一緒に過ごすケースもあります。
別室登校の適応例
不登校や行き渋りの原因はさまざまですが、原因によっては別室登校をすることにより、ストレスなく学校生活を送れる場合があります。
1. 教室内の人間関係のトラブルに悩んでいるお子さん
別室登校をすることで直接的な原因から距離を置くことができるので、登校しやすくなる可能性があります。
2. 外部刺激に敏感で、クラスの騒音が気になり授業に集中できないお子さん
静かで落ち着いた環境で学ぶことができる別室登校は有効です。
3. 読み書きの困難や数学の理解が難しいなど、学習障がいが原因で授業についていけないお子さん
個別の指導や補助を受けながら学ぶことができる別室登校が効果的な場合があります。
別室登校、保健室登校、放課後登校の違いは?
別室登校と似ている登校スタイルに、「保健室登校」と「放課後登校」があります。それぞれの違いについて説明します。
保健室登校とは
保健室登校は別室登校の1つで、お子さんが教室の代わりに保健室で日中を過ごします。
基本的には保健の先生と一緒に過ごし、自習や読書をして好きな時間に下校します。
教室で過ごすことにストレスがあるお子さんが一時的に保健室登校をしたり、不登校のお子さんが、学校に慣れるため保健室に1、2時間登校し、様子を見て教室復帰につなげるケースが多いです。
放課後登校とは
放課後登校は、他の児童生徒の下校後、夕方から登校して学習する方法です。
日中の別室登校とは異なり、クラスメイトに会う心配がありません。人間関係のトラブルなどで、クラスメイトと会いたくないお子さんに合う方法です。
放課後登校では担任の先生が対応するケースが多く、授業の学習進度に合わせて勉強を教えてもらえることもあります。
また、担任の先生と直接話をする機会が増えるため、人間関係の悩みなども相談にのってもらいやすくなります。
別室登校の2つの役割
別室登校の役割には大きく「不登校の予防」「教室復帰へのステップ」の2つがあります。
役割① 不登校の予防
不登校はある日突然始まるわけではありません。
お子さんは、学校に行きながら、何らかの不安やストレス、苦しみを抱え、徐々に登校することへの抵抗感を強めていきます。
そういったお子さんに対し、自身の教室以外の場所に登校できる「別室登校」は一時的に安心できる「居場所」になります。
不登校の原因が、担任の先生との人間関係やクラスメイトとのトラブルなど、教室内にある場合、学校内に「居場所」があることで、登校することへの抵抗感を軽減できます。
お子さんが精神的に追い詰められても「いざとなれば別室に行こう」と考えられるので、安心して学校に登校できるでしょう。
別室登校は、不登校とは異なり、お子さんのコミュニケーションの機会がある程度は維持されます。
別室にいる先生や、同じく別室登校をしている他の児童生徒と交流できるので、不登校のお子さんの多くが悩む孤独感に苦しむことが少なくなるでしょう。
また、不登校のお子さん同士でお互いの悩みについて話し、それが救いになることも期待できます。
別室登校は本格的な不登校にならないための、学校内の安全地帯として機能するのです。
役割② 教室復帰へのステップ
別室登校は、教室復帰へのステップとして使われることもあります。
不登校のお子さんが再登校を決めたとしても、しばらく学校に行っていない状態であれば教室復帰は不安が大きく、緊張するものです。
初日からお子さん自身の教室に入ることは、精神的にも大きなプレッシャーになるでしょう。
そのため、不登校から一気に教室復帰とするのではなく、別室登校というステップを踏んで学校に慣れるところから始めることで、教室復帰がスムーズに行われることがあります。
不登校になると生活リズムが乱れ、朝起きることができなくなるお子さんもいます。
別室登校であれば、学校に行く生活リズムに慣れさせることもできるため、教室復帰に効果的です。
別室登校の5つのメリット。出席扱いになり、孤立を防ぐ
別室登校には、不登校と比べてお子さんに複数のメリットがあります。
・「出席扱い」として認められる
・お子さんの孤立を防ぐ
・生活リズムの乱れを防ぐ
・学習が継続できる
・スクールカウンセラーと話ができる
「出席扱い」として認められる
別室登校の大きなメリットは、なんといっても「出席扱い」になることです。
教室に行かなくても、学校に短時間しかいなくても、別室に登校さえすれば欠席にはなりません。
文部科学省の定義では、病気や経済的理由以外で年間30日以上欠席する場合に「不登校」とみなされます。
別室登校は教室に入らなくても「欠席」ではなく「登校」とカウントされるので、不登校とはなりません。
小・中学校は義務教育のため出席日数に関わらず卒業できますが、高校進学時には出席日数が足りないと内申点に影響します。特に中学生にとっては、別室登校で出席日数を得られるのは大きなメリットといえるでしょう。
出席扱い制度についてはこちらの記事で詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
出席扱い制度とは?不登校でも出席日数を得られる文部科学省公認の制度
お子さんの孤立を防ぐ
別室登校によって、お子さんの孤立を防ぐことができます。
一度不登校になると、お子さんは家族以外とのコミュニケーションが激減し、保護者も学校との接点が減ってしまいます。
別室登校をすることによって、お子さんはこれまで関わることの少なかった先生や他のクラス・学年の児童生徒と交流することになります。
別室登校で学校に来ることで、お子さんの孤独感や不安感が軽減し、孤立を防ぐことができるでしょう。
また、別室登校には、保護者の孤立を防ぎ、復学に向けて学校と連携しやすくなるメリットもあります。
お子さんが不登校になると、先生と話す機会も減ってしまいます。
家庭と学校の話し合いが不足していては、保護者の学校への不信感は募り、教室へ戻るタイミングを失ってしまう可能性もあるでしょう。
お子さんが短時間でも登校することは、不登校で起こりがちな親子の孤立を防ぎ、復学に向けて学校と連携しやすくなるメリットがあります。
生活リズムの乱れを防ぐ
別室登校をすることで生活リズムが維持できるのも大きなメリットです。お子さんの心身の健康が保たれ、教室復帰に向けて動きやすくなります。
不登校になると、朝起きて学校に行くというルーティンが崩れるため、起床時間が遅くなり、極端な例では昼夜逆転生活になるなど、生活リズムが乱れがちになります。
別室登校をしていれば、朝起きる時間が不登校ほど崩れません。別室登校で学校に通う習慣が継続できれば、生活リズムは徐々に整ってきます。
学習が継続できる
別室登校をすることで、お子さんの学習は継続できます。
自分の教室で行われる授業に参加しているわけではないので、教室に登校している他のお子さんと同じペースで学習が進むわけではなりませんが、別室に来ている先生や学習支援員が学習の遅れや課題を補うための支援をします。
一般の教室とは異なり、小規模なグループや個別指導が行われるため、お子さん一人一人の学習ペースや理解度に合わせた教育が可能となります。個々の状況やニーズに合わせた支援を受けられるのは、別室登校のメリットといえるでしょう。
また、勉強を続けることで、お子さんの教室復帰の際の自信にもつながります。
スクールカウンセラーと話ができる
学校に登校していることで、スクールカウンセラーのカウンセリングが定期的に受けられます。
自分の抱える悩みや不安を保護者に話せない、また話したくないお子さんは少なくありません。そんなお子さんにとって、スクールカウンセラーとの定期的な会話は救いになり得ます。
別室登校のデメリットは?
不登校に比べ多くのメリットがある別室登校ですが、下記のようなデメリットもあります。
・学習が遅れる
・疎外感がある
・周囲から理解を得られない場合がある
・別室登校でいいと思ってしまう
学習が遅れる
別室登校では、基本的に自習になります。教室で行われる授業に参加できないため、別室で勉強はしていても、どうしても学習が遅れてしまいます。
お子さんの質問に先生が答えてくれることもありますが、別室登校を担当する先生はさまざまで、教科書の内容を教えられる先生がお子さんを見守るとは限りません。先生によっては新しい内容を教えてもらえない可能性があります。
気になる場合は、塾や家庭教師など、学校以外の場所で学習をフォローできるような環境を整えることがおすすめです。
また、クラスメイトとの交流の機会も教室に比べると少なくなるため、コミュニケーション能力の差が広がる可能性もあります。
学校は、勉強だけではなく、集団生活を学ぶ場でもあります。別室登校は少人数制なので、集団行動を通して連帯感や達成感を得たりするような経験は少なくなるでしょう。
疎外感がある
お子さんによっては、クラスメイトとのコミュニケーションが減ると疎外感を抱く場合もあります。
お子さんが別室登校をしている間も、クラスメイトは学校内の他の教室で授業を受けています。休み時間には元気に遊ぶ声も聞こえてくるでしょう。
学校にいるにも関わらず、クラスメイトと同じ行動ができないと落ち込み、気持ちの面で孤立してしまうケースも考えられます。
別室とはいえ校内なので、クラスメイトとの接触はゼロにはなりません。別室登校の状況にストレスを感じるお子さんは、放課後登校でステップを踏んだ方がよいでしょう。
周囲から理解を得られない場合がある
別室登校には「不登校の予防」「教室復帰へのステップ」の2つの役割がありますが、クラスメイトが別室登校の役割を理解できていないケースは多くあります。
そういった場合、別室登校をするお子さんに「どうして別室登校なの?」「教室に来ないのはずるい」といった批判的な言葉をかけてしまうこともあるでしょう。
別室登校を続けていると、周囲の理解を得られずお子さんが悩む可能性があるので注意が必要です。
偏見や誤解を受けることで、教室復帰への意欲を低下させてしまう場合もあります。
別室登校でいいと思ってしまう
別室登校が合うお子さんにとって、少人数制で自身のペースを保ちやすい別室登校は居心地の良い空間になります。
さらに、いろいろな先生が優しく声掛けをしてくれ、配慮してくれます。
教室に戻ると、どうしても児童生徒間のいざこざやトラブルが起こるため、別室登校に慣れてしまうと、教室復帰を望まなくなってしまう場合があります。
実際の社会では周囲の人がお子さんに配慮を続けてくれる環境ではありません。別室登校は特別な環境であることを認識しておく必要があります。
別室登校をさせたい場合はどうしたらいい?
別室登校には、厳密なルールはありません。
お子さんや保護者が「別室登校したい」と思ったタイミングで学校の先生に相談してみてください。
先生は、お子さんが不登校になるよりも、コミュニケーションを継続するためにも短い時間でもいいので学校に来てほしいと考えています。
学校によっては別室登校の場所や時間に制限がある場合もありますが、まずは先生に希望を伝えてみましょう。
もし、保護者から学校に対して要望を出しにくいという場合は、まずはスクールカウンセラーに相談してみて、学校の別室登校がどういった形式で行われているかを聞いてみるのもおすすめです。
別室登校から教室復帰はできる?
別室登校は、不登校から教室復帰するためのステップでもあります。
お子さんの気持ちを無視して周囲が教室復帰を無理に進めると、お子さんの精神的負荷が大きくなって教室復帰が遠のき、場合によっては不登校になるケースもあるでしょう。
しかし、適切なサポートがあれば、教室復帰できるお子さんは多いです。
教室復帰に向けて、お子さんの様子をよく観察し、保護者ができることをして、焦らずに進めていきましょう。
ここでは、お子さんのために保護者にできることを解説します。
お子さんの気持ちに寄り添う
別室登校をしているお子さんは、今の状況にも、また教室復帰に対しても不安な気持ちがあるでしょう。
保護者や先生は、お子さんの不安に耳を傾け、安心して教室復帰できるようにサポートすることが大切です。
具体的なサポートとして、以下のようなことができるでしょう。
・お子さんの話を聞いて、不安な気持ちを理解する
・教室復帰についてお子さんがどのように考えているかを理解する
・教室復帰に向けて、メリットやデメリットをお子さんに丁寧に話す
教室復帰できるまでの期間はお子さんによって異なります。保護者は焦らずに、見守る姿勢を続けることが大切です。
段階的な教室復帰を目指す
別室登校からの教室復帰では、焦らずに段階を踏むことが大切です。
ステップの一例ですが、下記のような段階を踏みながら教室で過ごすことに慣れていきましょう。
・休み時間に教室で友だちと話す
・好きな教科の授業を受ける
・給食を教室で食べる
・午前中だけ教室で過ごす
このように、お子さんの様子を見ながら、無理のないペースで進めていくことが大切です。
教室に入る時間を少しずつ長くしていくことで、お子さんに負荷がかかりにくくなります。
教室復帰後も継続して見守る
お子さんが教室に復帰できたからといって、お子さんの不安や悩みがなくなったわけではありません。
教室復帰後も、今まで以上にお子さんの様子に変化がないか、悩んでいる様子が見られないかを観察してあげてくださいね。
教室復帰は、不登校傾向にあったお子さんにとっての大きな挑戦です。前向きに挑戦した姿勢を認め、もし、また不登校や別室登校に戻ったとしても、一喜一憂せずにお子さんを受け入れてあげましょう。
別室登校から教室復帰までのステップは、お子さん1人ひとりの状況に合わせて柔軟に対応していくことが大切です。
さいごに
別室登校を希望するお子さんの保護者は、別室登校が適切な選択肢であるかどうかを学校に相談することが重要です。
また、お子さんに必要なサポートを定期的に確認し、状況に応じてカウンセリングを受けることも検討しましょう。
不登校は家族にとって大きな負担となりますが、お子さんが適切な支援を受けることで、自身を見つめ直し、学びを深められる機会にもなります。
別室登校を上手に活用して、お子さんが無理なく教室復帰できることを願っています。
【出典一覧】
*出典1 文部科学省「令和4年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果概要」
参考箇所:3 長期欠席