不登校のお子さんを持つ保護者の方の中には、お子さんが学校の代わりに日中を過ごせる「居場所」探しに悩まれている方もいるでしょう。
不登校の児童生徒数が急増している今、文部科学省は学校外にも「多様な学びの場」を整備していくことを通知しており、不登校のお子さんの居場所として、公的・民間施設含めさまざまな選択肢があります。
本記事では、不登校中の居場所づくりがお子さんにとってなぜ大切なのか、また学校の代わりとなるさまざまな居場所や施設・選択肢についてご紹介します。
不登校のお子さんに居場所が必要な理由
不登校になったお子さんには、物理的・精神的どちらの面からも「居場所」が必要になります。その理由をご説明します。
安心して過ごせる場所が必要だから
不登校になると、当然ながら、お子さんは日中を家で過ごすようになります。
しかし、共働きが増えている今、両親ともに朝から出社し、家には誰もいないということが珍しくありません。
また、保護者の方が家にいたとしても、家事に忙しかったり、他の兄弟の用事があったりすると、ずっと不登校のお子さんの相手をするというのは現実的ではないでしょう。
そういった状況に対応するため、学校の代わりに、お子さんが安心して過ごせる居場所が必要になります。
そして、その場所はお子さんが「ここにいたい」と思える場所である必要があります。
不登校になったお子さんは、学校で過ごす中で、どこか無理をしていたり、傷つく出来事があったりして心身ともに疲弊している場合が多くあります。
そんなお子さんが、疲れた心と身体を癒やしながら、自分に自信が持てるようになる、回復に適した居場所である必要があります。
社会との繋がりを保てるから
不登校が、社会とのつながりを失うきっかけとなってしまうケースがあります。
不登校になって、日中を家で過ごすうちに、外へ出ていく気力がどんどん失われ、そのまま「ひきこもり」へとつながってしまうことも。
学校に行きたくないのであれば、無理に登校する必要はありませんが、学校の代わりに社会とつながる居場所を探してあげることが、精神状態の悪化を防ぎます。
また、学校は社会で生きていくための集団生活やコミュニケーションを学ぶ場でもありますが、家で1人、または親子だけで過ごしていると、そういった経験が乏しくなってしまいます。
家で1人でいることにより、「自分は社会でやっていけない」と絶望することもあるので、学校以外の場所で、人と関わりながら過ごすということはとても重要になります。
お子さんの居場所をつくる方法とは?
文部科学省は2019年から、フリースクールなどでの教育確保を求めており、今年3月には「誰一人取り残されない学び」(*出典1)を掲げ、学校外にも多様な学びの場を整備していくことを通知しています。
学校に行けない児童生徒が29万人を超える今、学校以外にも、子どもたちの居場所になり得る場所が整備されてきているのです。
家庭内でできること
学校生活で疲弊してしまったお子さんにとって、自分の家という場所は、ゆっくり休める最適な居場所です。
まずは、学校へ行きたくないというお子さんの意思を尊重し、受け入れてあげてください。
誰に気を遣う必要もなく、ゆっくりと自分の思うように時間を過ごせる場所を用意してあげることで、お子さんが家で安心して過ごせるようになります。
文部科学省は「不登校児童生徒への支援の在り方」(*出典2)で、不登校の児童生徒が自宅で要件を満たして学習を進めることで「出席扱い」に認定される制度を発表しています。
自宅で、出席扱い制度に認定されているICT教材やオンラインフリースクールを活用して学習を進めることで、「出席扱い」に認定される児童生徒は年々増加しています。
ただ、この制度を利用したことのない学校もあるため、制度を活用したい場合は、要件や手順を確認し、学校と十分に連携を図ることが重要です。
家庭外でできること
もし可能であれば、お子さんが「家族以外の人」と交流できる場を持てるように、意識していただきたいと思います。
昔の友達であったり、習い事が一緒の友達や習い事の先生、生活で関わる美容師さんや店員さんなど、どんな人でも構いません。
誰かとコミュニケーションをとるということは、簡単に思えますが、とても社会的な行動です。
「学校でうまくいかなくても、自分を受け入れてくれる場所がある。社会でも生きていける」とお子さんが思えることで、自信が持てるようになり、将来への安心感も生まれます。
公的機関の利用
①学びの多様化学校(旧 不登校特例校)
学びの多様化学校とは、これまで「不登校特例校」と呼ばれていた学校です。2023年8月、不登校特例校の新たな名称として「学びの多様化学校」が公表されました。
令和5年時点で公立・私立含めて全国に24校あります。
文部科学省が正式に認可している一条校にあたりますが、学習指導要領にとらわれず、不登校の児童生徒の実態に配慮した特別な教育課程を編成・実施しているのが特徴です。
不登校生が通いやすいよう、始業時間を遅くしたり、授業時間を短かくするなど、独自に工夫している学校が多くあります。
教育支援センターやフリースクールのように、元の学校に籍を置いておく必要がなく、学びの多様化学校に通うことで卒業資格がもらえます。
学びの多様化学校について詳しくは、こちらの記事をご覧ください。
②教育支援センター(旧 適藤指導教室)
教育支援センターは、主に小・中学校を長期間休んでいるお子さんを対象にした、学校に通わなくても学習を進めたり、集団生活を学んだりできる公的機関です。
運営は市区町村が教育委員会と連携して行っているため、学校との連携が密であるのが特徴で、通所が学校の「出席扱い」になるケースも多いです。
カウンセリングや教科指導を通じて不登校のお子さんを支援しているため、学習の遅れを取り戻しながら学校復帰を目指すことができます。
学校復帰を目的として設置されており、あくまで一時的な支援施設であるため、中学校の代わりにずっと通うという性質のものではありません。
教育支援センターについて詳しくは、こちらの記事をご覧ください。
③保健室
学校に行きたくないというお子さんの中には、教室ではなく、学校の保健室に通っているケースもあります。
「保健室登校」や「別室登校」と呼ばれており、「学校に行くことはできるけど、自分の教室には行けない」というお子さんには、選択肢の1つになります。
保健室登校とは、「常時保健室」または「特定の授業には出席するが、主に保健室で過ごしている状態」で、出席日数にカウントされるため、毎日保健室に登校しているお子さんであれば、正しくは「不登校」ではなくなります。
学校によって、望む形での保健室登校ができるかは異なるので、まずは学校に連絡し、登校の選択肢としてどのような形をとれるのか、お子さんの現状に寄り添った登校スタイルは何かを相談してみてましょう。
民間施設の利用
①フリースクール
フリースクールはNPOや企業などが運営する民間の教育機関で、主に不登校や引きこもりのお子さんに学習やコミュニケーションの機会を提供し、”第二の居場所”として支援をおこなっています。
全国に400~500施設あるため、不登校生の受け入れ先として認知度は高いです。ただ、規模や理念、活動内容はそれぞれの施設で大きく異なるため、お子さんに合うかどうか、事前にしっかり確認する必要があります。
フリースクールについて詳しくは、こちらの記事をご覧ください。
②塾や習い事
学校に行っていなくても、塾や習い事には行けるというお子さんは少なくありません。
学校近隣の塾や習い事であれば、学校の友達が通っていることも多くありますが、本人が嫌がるのでなければ、ぜひ行かせてあげてください。
時間が短いため、学校よりは気軽に行けますし、学校とは異なる環境で友達と接することで、気分転換になるでしょう。
居場所づくりの他に「絆づくり」が重要
「絆づくり」(*出典3)とは、主体的に取り組む共同的な活動を通して、お子さんが自ら「絆」を感じ取り、紡いでいくことを指しています。
お子さんに整った居場所を用意する「居場所づくり」がお子さんにとっては受動的な要素であることとは対照的に、「絆づくり」はお子さん自身が能動的に取り組むことで実現するものです。
「絆づくり」を進めるのはお子さん自身であり、保護者の方に求められるのはそのための場所や機会を提供することです。
「絆づくり」を通して、社会の一員であることを実感できたり、達成感を得ることができるため、最近では子どもの学びや成長に欠かせない要素と考えられています。
家庭以外で絆づくりをするには?
お子さんが安心して出かけられ、受け入れられていると実感できる「居場所」があることは、不登校のお子さんにとって「社会で生きていける」と思う自信と安心感につながり、大きな救いになります。
では、絆づくりはどのように行っていけばよいのでしょうか?
①地域イベントなどへの参加
地域で行われるさまざまなイベントに参加してみるのもよいでしょう。
お祭りや音楽イベント、フリーマーケット、親子向けイベントなど、市区町村のホームページやSNSなどで調べると、多様なイベントが見つかると思います。
特にお祭りなどは、地域の人が主体となってイベントをつくりあげるケースが多く、参加することで自然と地域の人とのつながりを実感できるようになるため、絆づくりに適しています。
②フリースクールのイベントなどへの参加
比較的規模が大きく、生徒数が多いフリースクールでは、学校のように運動会などのイベントが開催されることがあります。
お子さんが主体的にイベントをつくりあげることがほとんどであるため、準備を通して人との絆を感じ、社会の一員であることを実感できる良い機会になるでしょう。
③不登校のお子さん向けのイベントなどへの参加
地域によっては、不登校のお子さんをサポートする活動や、フリースクールに通う児童生徒向けのイベントが開催されることがあります。
場所や時期は限定されますが、こうした機会があれば、ぜひ参加してみることをおすすめします。お子さんに、悩みを共有できる友達ができたり、自分らしさを発見する良い機会になるでしょう。
【まとめ】
不登校になったお子さんには、学校の代わりになり、安心して過ごすことのできる「居場所」が必要になります。
さまざまな選択肢の中から、今のお子さんに合う施設はどこなのか、保護者の方とお子さんが一緒に探していただきたいと思います。
また、居場所づくりと並行し、絆づくりを意識することで、お子さんの主体的な行動が生まれ、「社会で生きていける」と思える自信と安心感を持つことができるようになるでしょう。
【出典一覧】
*出典1 文部科学省|誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策(COCOLOプラン)
参考箇所:目指す姿
*出典2 文部科学省 不登校への対応について
参考箇所:子どもが不登校になった場合、どこに相談したらよいですか。
*出典3 文部科学省 国立教育政策研究所|「絆づくり」と「居場所づくり」
参考箇所:「絆づくり」と「居場所づくり」の違い