不登校のきっかけはお子さんによってさまざまであり、回復にかかる時間もそのサインも人それぞれです。
しかし、不登校はいつまでも同じ状態が続くわけではなく「回復期」が必ず訪れます。
回復期は不登校状態から抜け出すための大切な期間であり、回復期のタイミングを見極め、適切な対応を行うことが重要です。
この記事では、不登校の回復期に見られるサインや保護者の方が注意しておきたいポイントについて紹介します。
不登校の回復期とは?
不登校の回復期とは、必ずしも学校に登校をすることを指すのではなく、不登校から次のステップに進むための準備期間のことを指します。
回復期には、不登校でつまづいたお子さんの心にエネルギーが溜まり始め、気持ちが前向きになってきます。
ただ、不登校は病気ではないため、回復期という言葉に医学的な定義はありません。
そのため、回復期によく見られるサインを理解し、それぞれのお子さんの様子と照らし合わせながら見極めていくのが大切です。
不登校から回復するまでの3つの段階
不登校になってから回復するまでには、大きく分けて3つの段階があります。
具体的には、不登校になってから回復するまでに「不登校開始期」「引きこもり期」「回復期」の3つの段階を経ることになります。
それぞれの段階の特徴は、以下の通りです。
不登校の段階 | 特徴 |
不登校開始期 | ・腹痛や頭痛といった体調不良が見られる ・遅刻、早退、欠席などが増えてくる |
引きこもり期 | ・登校するのを嫌がりほとんどの時間を家で過ごす ・周囲の人との関わりを避けるようになる ・昼夜逆転生活になることも |
回復期 | ・心に活力が湧いてくる ・不登校からの次の一歩を踏み出そうとする |
文部科学省の資料「不登校児童生徒への支援に関する最終報告」では、不登校が長期化すると回復が困難になる傾向があることから、早期支援の重要性が強調されています。特に、回復期には学校復帰に向けた登校刺激が有効になるケースもあるそうです。
(*出典1)文部科学省|不登校児童生徒への支援に関する 最終報告
ただし、不登校の原因やお子さんの状況によっては逆効果になってしまう場合もあるので、慎重な対応が必要です。お子さんが不登校になった原因やお子さんの状況を的確に把握するとともに、適切なサポートをするようにしましょう。
不登校の回復期に見られる5つのサイン
不登校の回復期には、回復のサインがさまざまな形で現れます。回復期のサインを把握していないと、回復に向かっているときに現れる微妙な変化を見逃してしまうかもしれません。
また、回復=学校への登校、という一点を指標と捉えすぎると、回復のサインであっても「でも、学校には行けてない」と受け止めてしまい「いつまでも何もしないで」という気持ちが膨れ上がってしまいがちです。
お子さんの回復段階に目を向けられることは、保護者にとってもお子さんにとっても、前に進んでいることを感じるために大事なことであると考えられます。
ここでは、不登校の回復期によく見られるサインを5つご紹介します。お子さんに当てはまるものがあるか、確認しながら読んでみてください。
周りの人との会話が増える
不登校状態のお子さんは、家族や友達との会話が少なくなっている場合が多く見られます。
しかし、回復期に入ると、周りの人との会話が自然と増えるようになるお子さんもいます。
自分から話しかけることが増えたり、家族や友達と話す時間が長くなったりするのは、お子さんの心に余裕が出てきたサインと言えるでしょう。
学校や進路に興味を持つようになる
学校や進路のことを考えないようにしていたお子さんも、回復期に入ると徐々に学校や進路に興味を持つことがあります。
たとえば、自分から将来の目標について語ったり、進路について調べたりと、前向きな行動が増えてきます。
中には、保健室登校だったら行ってみようかな、と意識が外に向くようになる様子が見られるお子さんもあります。
保護者としては、お子さんが将来について考え始めたら、お子さんの目指す進路を実現できるようにしっかりとサポートしていきましょう。
暇をもて余すようになる
引きこもり期には、お子さんは心身ともに疲れているため、動く気力が湧かないことが多いです。
一方で、回復期に入ると、心と体にエネルギーが溜まりはじめ、活動できる時間が増えてきます。何もしていない時間を「暇」だと感じるようになったら、それは回復しているサインのひとつであると捉えてもよいかもしれません。
お子さんが「暇だ」「何かやることはないかな」などと言っていたら、家族で出かけたり、家事の手伝いを頼んだりするのもおすすめです。
外出することが増える
外出することが増えるのも、回復期のサインの1つです。
不登校期間中は、自分の部屋にこもってばかりいたお子さんも、回復期になると、少しずつ外出する回数が増えてきます。
「保護者の買い物についていく」「家の周りを散歩する」など、短い時間の外出であっても、回復期の大きなサインです。
ただし、少し外出し始めたからと言って、保護者から外出の回数を増やそうとすると、かえってお子さんのストレスになってしまう可能性があるので注意が必要です。
あくまでもお子さんのペースを守り、保護者としては、一歩離れて見守るようにしましょう。
自主的に勉強に取り組む
不登校になると、学校に行かなくなったために、勉強への意欲も失ってしまう場合が多いです。
しかし、勉強の遅れや将来のことを気にしているのはお子さん本人です。
一見そうは見えなくても内心不安を抱えていたり、長らく学校に行っていないとどこから手をつけていいかわからなかったり、やっても出来ないと自信がないと最初から取り組むことを放棄してしまうような気持ちになるお子さんもいます。
回復期になり、元気になってくると自主的に勉強に取り組むようになってくるお子さんもいます。
保護者の方は、自分から勉強している姿を見ると「そろそろ学校に復帰できるのでは」と思うかもしれませんが、焦りは禁物です。
保護者の安心感のために、勉強に乗せようとすると、かえってお子さんのやる気を削いでしまうこともあります。
回復期は、次の一歩に向けてエネルギーが回復してきた時期であり、完全に回復しているわけではありません。
焦らずに、少しずつ、そして、その状態を維持することの大変さも頭にいれておきながら、勉強の様子を見守り、何か必要なヘルプがありそうかなどを伺ってみましょう。
常に「次へ、次へ」と進んで行こうとすると、疲弊してしまうことも少なくありません。
また、保護者が勉強に関わると衝突になりやすい場合もあります。
回復期には、塾やフリースクールなど、お子さんの目標に合わせたサポートが受けられる場所を利用し、役割を分担することもおすすめです。
不登校の回復期に注意すべきポイント
不登校のお子さんを持つ保護者の方にとって、回復期のサインが見られるのは、とても嬉しいことでしょう。
ただし、回復期はあくまでも回復途中です。お子さんへの接し方を間違えてしまうと、かえって状態が悪化してしまう可能性もあります。
ここからは、回復期を上手く過ごすために、保護者として注意しておきたいポイントをご紹介します。
保護者が焦らない
お子さんが回復してきた様子を見ると、保護者としては嬉しいものです。
しかし、回復期に入ったからといって、一気に勉強の遅れを取り戻そうとしたり、無理に学校に行かせようとしたりしてはいけません。
回復してきたときこそ、保護者の方は焦らないように注意しましょう。
お子さんのペースに合わせて、無理なく復帰に向けたサポートをするように心がけることが大切です。
お子さんの変化に対して過剰に反応しない
回復期によく見られるポジティブな変化が見られると、つい喜びの気持ちを本人にも伝えたくなるものです。
しかし、お子さんの変化に対して過剰に反応するのは避けましょう。
なぜなら、回復期のお子さんはまだデリケートであり、回復を喜ぶ言葉だったとしても、お子さんにとっては「喜んでもらうためには頑張らなくては」「段々しんどくなってきたけど、出来なかったらがっかりされるんじゃないか」など、プレッシャーとなってしまう可能性があるからです。
回復期のお子さんと接する場合は、お子さんの変化に一喜一憂するのではなく、一歩離れて見守る姿勢が大切です。
また「一歩下がったように見える」ことも回復期には起こります。その意味で一進も一退もあまり一喜一憂しすぎずに、フラットに「今の状態」と、捉えるように心がけることもひとつです。
勝手に先回りして考えない
お子さんが回復してくると、早く学校に復帰させたいと思い、学校に戻るための準備を進めたくなるかもしれません。
しかし、保護者の方が勝手に先回りして準備してしまうと、お子さんはプレッシャーを感じてしまう可能性があります。
まずはお子さんが自発的に動き出すのを待つのが大切です。
先回りして準備しないことで、時間はかかるかもしれませんが、お子さんに寄り添いながら一緒に先のことを考えていく姿勢がお子さんの安心に繋がることもあるでしょう。
不登校からの回復に時間がかかる理由
不登校からの回復にかかる時間は、一般的に3カ月から1年ほどと言われています。
しかし、回復にかかる時間は、不登校になった原因やお子さんの状況によっても変わってくるため、この数字はあくまでも目安です。
一般的に、不登校からの回復は、大人の想像以上にゆっくりと進みます。
ここからは、不登校からの回復に時間がかかる理由について見ていきましょう。
体力の低下
不登校になると、自分の部屋にこもり、家の中で過ごす時間が増えます。
外に出ない生活が続くと、体力が低下し、疲れやすくなるでしょう。そのため、不登校から完全に回復するまでには時間がかかります。
ただし、お子さんの意思に反して外へと連れ出すのは避けましょう。無理に外出しようとしても、不登校の状態が悪化してしまいます。
外へ出ることや、買い物に行くなどができそうな時は、少し近所を散歩してみるなどはいいかもしれません。
保護者としては、お子さんが自ら体力をつけたいと思えるまで、じっくりと待ってあげることが大切です。
もしくは、体力づくりとは言わないまでも、外を散歩すると気持ちがいいと思うお子さんもいますので、気分転換くらいに外に出るところからでもひとつでしょう。とはいえ、外出をあまりしたがらないお子さんは案外少なくないので、無理のない範囲を心がけましょう。
失敗に対する恐怖
不登校になったお子さんの中には、勉強や人間関係など、何らかの「失敗」が原因となっている場合も多いです。
文部科学省の調査でも、不登校の要因として「いじめを除く友人関係をめぐる問題」が9.7%と3番目に、学業の不振が5.2%と5番目に多い要因となっています。
(*出典2)文部科学省|令和3年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について
そういった場合、過去の失敗経験がトラウマとなり、再び学校に通うことに対して強い恐怖や不安を感じていることがあります。
失敗に対する恐怖心は、お子さんが学校に復帰する際の大きな障壁となり、長い時間をかけて克服する必要があるでしょう。
【まとめ】不登校の回復期のサインを見極め、じっくりと見守ることが大切
今回は、不登校の回復期のサインについてご紹介しました。
不登校の原因はお子さんによってさまざまですが、どんなお子さんにもそれぞれの回復期が訪れます。
回復期は、不登校状態から次のステップへと進むための大切な期間であり、しっかりとそのタイミングを見極め、適切なサポートをすることが重要です。
回復期の接し方を間違えてしまうと、再び引きこもり期に戻ってしまう可能性もあるため、注意が必要です。
保護者の方は、早く学校復帰させようと焦るのではなく、お子さんの気持ちを尊重しながら、じっくりと見守ってあげてください。
【出典一覧】
*1 文部科学省|不登校児童生徒への支援に関する 最終報告
参考箇所:不登校から回復するまでの3つの段階
*2文部科学省|令和3年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について
参考箇所:不登校からの回復に時間がかかる理由、失敗に対する恐怖
【監修者コメント】
「不登校の回復期」について、回復が進んでいく中で、家での活動の種類や時間が増える子もあれば、学校に何らかの形で登校をする子もいれば、適応指導教室に通う子や、フリースクールに通う子、習い事を始める子など、回復の先の姿は様々です。
いずれにしても、気持ちが少し外に向いているような印象を持つことが多いです。
そして、その前段階としては、家で過ごす様子が落ち着くようになったり、衝突が以前よりは減ったりするなど、安心して今を過ごすことができているような印象もあります。
お子さんがそのように過ごせるようになるまでには、保護者の方も様々な葛藤や感情の浮き沈みを経て、同じように気持ちが落ち着いていたり、構えることもできるようになっているような印象があります。そうはいっても、不安がなくなるわけでも、怒ってしまうことがなくなるわけではないとは思いますが。
不登校状態になり、すぐに回復期を目指そうとすると、かえって悪い方向に向かってしまうこともあります。まずは、お子さんも保護者の方も、その時ごとにできることを整理しながら、エネルギーを充電していくことを大事にしてみてください。
その際に、少しずつお子さんに出てくる変化やサインを見逃さないように、この記事も参考にしながら、お子さんの様子を意識的にみる機会を時々設けてみてください。