「どうして学校に行かなきゃいけないの?」とお子さんに聞かれたら。
何と答えるのが正解なのでしょうか?
まずは冷静に、お子さんがそういった質問をしてきた背景を考えてみましょう。
純粋に学校に行く意味を考えているだけなのか。
夜更かしで眠くて行きたくないなど、軽い気持ちで言っているのか。
学校で何かトラブルがあり、ずっと悩んでいて耐えきれずに漏らした言葉なのか。
原因はわからないけれど、何をする気にもなれない無気力状態から出た言葉なのか。
本記事では、お子さんが「学校に行く意味」を聞いてくる理由とその質問に答えるときのポイント、学校に通う本質的な意味について、詳しくお伝えします!
本当に学校に行く意味を考えている?
言葉通りにとらえない方がいい場合もある
お子さんが「どうして学校に行かなきゃいけないの?」と聞いてきても、本当にその答えを知りたくて聞いているとは限りません。
もちろん、ふと「どうして学校に通っているんだろう?」と疑問に思って聞いてみた、というケースもありますが、「学校に行きたくない」という気持ちを発端に「どうして行かなきゃいけないんだろう(行きたくないな)」という気持ちになっているお子さんも少なくありません。
「学校に行く意味」を問う背景を考える
まずは、お子さんがどんな理由で「学校に行く意味」を尋ねているのか、対話やお子さんの様子から考えてみましょう。
何か学校に行きたくない明確な理由があるものの、その原因を言いたくないために質問してみるといった、本当の理由を隠すための言い訳であったり、学校へ行くことが大切だと知っているものの、行きたくない現状への罪悪感に対処するための言葉だったりする可能性があります。
「学校に行く意味」を問う背景4選
お子さんが学校に行く意味を聞いてくる背景にはどんな理由があるのでしょうか。
個々で理由は異なりますが、よくある理由を紹介します。
①勉強についていけない
お子さんが学校の授業についていけないため、勉強に対してやる気が出ず、悩んでいるケースがあります。授業についていけない自分が恥ずかしくて自信を失っていたり、テストの点や成績のことを先生や保護者、友人に指摘されたりすることで、学校が苦痛になってしまうこともあります。
勉強についていけない場合は、塾や家庭教師など、学校以外で学習を補う方法を提案してみるのもおすすめです。
保護者の方が成績の良し悪しにこだわっていると、「ついていけない」「わからない」と言い出せない可能性もあるので、日頃からお子さんの気持ちを聞き、フラットなコミュニケーションをとることが重要です。
②人間関係に悩みがある
お子さんにとって、学校の友人と良好な関係を築けているか否かはとても重要な問題です。
いじめはもちろん、ちょっとした仲間外れや友人に何気なく言われた一言で深く傷つくことがあります。
家族や先生などの周囲の人にも相談しづらい内容であるため、保護者の方が気づけないことも多いです。
1日の大半を学校で過ごすお子さんにとって、クラスメイトとの人間関係は死活問題です。少しでも悩んでいる様子が見られれば、話を聞いてサポートしてあげましょう。
気になることがあれば、先生と連絡をとって情報共有することで、学校での様子もわかってくるでしょう。
また、小学校を卒業すると、クラスメイトだけでなく「先輩・後輩」の上下関係が出てきます。これは小学校ではなかった関係性であるため、戸惑ってしまうお子さんもいます。
学校や部活動によって、上下関係の厳しさは異なります。想定していなかった環境に身を置くことになり、部活の上下関係にうまく馴染めないという理由で学校が嫌になるケースは少なくありません。
その他、先生に対する「好き嫌い」が出てくるのも自然なことです。
特定の先生を「なんとなく怖い」と思ってしまったり、先生に何か注意されたことをきっかけに苦手意識が芽生え、先生とのコミュニケーションがうまくできなくなるお子さんもいます。
学校はお子さんにとっての社会です。多くの人と関わるからこそ、人間関係の悩みは珍しいことではなく、その悩みにより、学校に行きたくないと感じてしまうことは少なくありません。
③身体の不調
「朝起きるのが辛い」「頭痛腹痛が頻発する」といった症状がある場合は、「起立性調節障害」の可能性があります。
起立性調節障害は、自律神経のバランスが崩れやすい思春期に症状が出やすくなります。
代表的な症状は、朝起きられない、けん怠感、頭痛などで、中学生の約1割がこの病気だと言われており、不登校の原因になっていることも多くあります。
もし、起立性調節障害の可能性がある場合は、病院を受診してみてください。
日常生活では、暑気を避けたり、低血圧予防のための水分補給に気をつけたりすることで、症状を軽くできる場合があります。
身体的には問題なくても、「何となくだるい」「めんどくさい」といった気分が続き、学校に行く気力がなくなってしまうお子さんもいます。
原因は複合的なことが多く、一概には言えませんが、勉強や部活に追われるハードな生活に疲れてしまったり、何らかの理由で自己肯定感が低くなり、やる気が出なかったりするケースがあります。
こういったケースでは、本人も明確な理由がわからず「どうしていいかわからない」状態であることが少なくないため、保護者の方はお子さんを責めるような言葉をかけないように注意してください。
他にも、お子さんの中には、病院で診断されたことはないけれど、実は発達障がいや病気を抱えていたというケースもあります。
発達障がいの代表的なものとして、学習障がいや注意欠陥多動性障がい(ADHD)、自閉症スペクトラム(ASD)があります。
さらに、発達障がいの特性が一部あるものの、診断に至るほどではない「グレーゾーン」と呼ばれるお子さんもいます。
発達障がいは生まれつきの脳機能の発達の偏りによるもので、クラスメイトが難なくできることができなかったり、生き辛さを感じることが多くあります。
④学校に馴染めない
集団生活をする学校という場に馴染めないお子さんもいます。また、学年が上がるタイミングだったり、急な環境の変化に対応するのが難しいお子さんもいます。
学校給食がどうしても苦手だったり、練習や参加に苦痛を感じるイベントがある場合もあります。その苦手意識が学校そのものへの苦手意識につながってしまっているケースもあるでしょう。
親ができる対応のポイント
学校に行きたくないという気持ちから「学校に行く意味」を聞いてきている場合、保護者の方はどのような声掛けや対応をするべきでしょうか?
「学校に行きたくない」と保護者に伝えるのはお子さんにとってとても勇気のいることです。意を決して打ち明けてくれたお子さんの気持ちを無下にしないために、どうすれば良いのでしょうか。
単に学校に行かないことを容認するだけでは効果は薄い
お子さんの「学校に行きたくない」という気持ちを無視して、とにかく学校に行かせようとするのは逆効果になってしまう可能性があります。
まずは、「行きたくない」という気持ちを受け止めてあげることが重要です。
ただし、「行きたくないんだね、わかったよ」とお子さんをただ放っておくだけでは、お子さんが「親に見放された」と感じてしまう可能性があり、問題があります。
お子さんの様子をよく見て、日常的に会話を絶やさないようにしてあげてください。
お子さんの話をしっかりと聞くことが大切
お子さんが、会話の中で「学校に行きたくない理由」を素直に話してくれるのであれば、その原因を取り除けないか、お子さんと一緒に問題に向き合ってあげることができます。
ただ、「学校に行きたくない理由」がお子さん自身もはっきりわからないケースや、わかっていても親には言いたくないという場合もあります。
そういった場合も、日常会話を意識的に絶やさないようにして、お子さんの話をしっかり聞いて親子のコミュニケーションを密にしてください。
お子さんが話す気になればそのタイミングで話してくれるようになりますし、何よりお子さんが孤独になることを防げます。
学校で勉強する意味って?
では、お子さんが本当に「学校に行く意味」を知りたくて「どうして学校に行かなきゃいけないの?」と聞いている場合、保護者の方はどのように答えるべきでしょうか?
学校に行く理由はさまざまあり、お子さんによって、共感できる理由と共感できない理由があるでしょう。
ここでは、多くの人が納得できる一般的な理由を解説します。
社会に出るうえで必要不可欠な知識を学べる
学校は、勉強する場です。
国語や算数など、生きていくために必要な知識や考え方を学べます。学校で学んだことは、社会に出て仕事をする際にも、社会で生活する際にも必要になってきます。
大人になって、社会人として生きていくために、必要不可欠な知識と考え方を学べる場所が学校なのです。
多様なものの見方を学ぶ
学校には、自分とは異なる環境で育った、異なる価値観を持つクラスメイトがたくさんいます。
自分とは違う意見や考え方を持ったクラスメイトと一緒に学校生活を送ることで、自分の考えが必ず正しいということではないということや、正解が一つではないことを体感でき、新しい自分の価値観を発見できることがあります。
将来何かの役に立つ
具体的に、今学校で学んでいることが将来どんなことに役立つのかがわからない場合もあると思います。
でも、お伝えしたいことは「勉強しなかったことを後悔する人はいますが、『勉強したこと』を後悔する人はいない」ということです。
何に役立つか、今の時点ではわからなくても、基礎学力を高めていくことはお子さんの将来の選択肢を広げることであり、必ず何かの役に立つでしょう。
学校で得られる3つのこと
学校で勉強する意味と併せてお子さんにお伝えしていただきたいのが、学校に通うことで得られることについてです。
学校生活を通して、お子さんはさまざまな力を培うことができます。
①社会性が身につく
学校はお子さんにとっての「社会」です。お子さんが、クラスメイトや先生と日々を過ごしていく中で、人とのコミュニケーションのとり方や社会生活を送るうえでのさまざまな常識、社会性、協調性を身に着けることができます。
②忍耐力など「非認知能力」が鍛えられる
近年、学力とは異なる「非認知能力」の重要性が知られてきています。
「非認知能力」とは、テスト結果などの数字で表せない、自制心や忍耐力、コミュニケーション力などの能力のことで、社会に出た後、学力だけでは対応できない問題に直面したときに必要になる力と言われています。
学力は、お子さんが1人で勉強して身につくのに対し、非認知能力は集団生活の中で培われる能力で、学校生活や部活動、課外活動などで鍛えられます。
③異なる視点から考える力がつく
多様なものの見方を学べることにもつながりますが、学校で自分とは異なる環境で育った、異なる価値観を持つクラスメイトと交流することで、異なる視点から考える力が身に付きます。
自分とは違う意見や考え方を持ったクラスメイトと一緒に学校生活を送ることで、ものごとを一辺倒に考えるのではなく、さまざまな視点から考えることができるようになります。
絶対に学校に行かなきゃいけないわけではない
学校に行くことで得られることをご紹介しましたが、学校は絶対に行かなければいけない場所ではありません。
学校へ行くことは権利
日本国憲法は社会権として、「教育を受ける権利」を保障しています。
小中学校は義務教育と言われていますが、これは教育を受ける義務ではなく、教育を与える義務という意味です。
「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。」と記載されているように、学校へ行くことは義務ではなく、お子さんの権利です。
お子さんの意見を尊重しよう
何より、学校へ行くか行かないかを決めるのは、お子さん自身です。
学校に行かないという選択をしたお子さんも、「本当は学校に行かなければいけない」と思っており、自分が他のクラスメイトと同じように登校できなくなってしまったことに負い目を感じています。
そんなお子さんを、必要以上に責めたり、再登校のプレッシャーを与えたりするようなことはしないようにしましょう。
大切なことは、「今、学校に行けていないお子さん」をそのまま受け止めることです。
「今は行きたくないんだね」と、ただ現状を受け止めてあげてください。
そして、様子を見ながら、学校に行かなくてもお子さんが自身の成長を感じられるような環境や体験を用意してあげることで、再登校への道が開けてくる可能性があります。
学校以外の選択肢もある
文部科学省は2019年から、フリースクールなどでの教育確保を求めており、今年3月には「誰一人取り残されない学び」(*出典1)を掲げ、学校外にも多様な学びの場を整備していくことを通知しています。
公的機関
学びの多様化学校(旧 不登校特例校)
学びの多様化学校とは、文部科学省が正式に認可している一条校にあたりますが、学習指導要領にとらわれず、不登校の児童生徒の実態に配慮した特別な教育課程を編成・実施しているのが特徴です。
不登校生が通いやすいよう、始業時間を遅くしたり、授業時間を短かくするなど、独自に工夫している学校が多くあります。
学びの多様化学校について詳しくは、こちらの記事をご覧ください。
教育支援センター(旧 適藤指導教室)
教育支援センターは、主に小・中学校を長期間休んでいるお子さんを対象にした、学校に通わなくても学習を進めたり、集団生活を学んだりできる公的機関です。
運営は市区町村が教育委員会と連携して行っているため、学校との連携が密であるのが特徴で、通所が学校の「出席扱い」になるケースも多いです。
教育支援センターについて詳しくは、こちらの記事をご覧ください。
民間施設の利用
フリースクール
フリースクールはNPOや企業などが運営する民間の教育機関で、主に不登校や引きこもりのお子さんに学習やコミュニケーションの機会を提供し、”第二の居場所”として支援をおこなっています。
全国に400~500施設あるため、不登校生の受け入れ先として認知度は高いです。ただ、規模や理念、活動内容はそれぞれの施設で大きく異なるため、お子さんに合うかどうか、事前にしっかり確認する必要があります。
フリースクールについて詳しくは、こちらの記事をご覧ください。
【まとめ】
「どうして学校に行かなきゃいけないの?」とお子さんに聞かれたら。
まずはお子さんがそう質問した背景を確認し、お子さんが何を求めているのかを考えましょう。
学校は、社会で生きていくために必要な知識や社会性、多様な考え方など、さまざまなことを学べる場ですが、「学校に行く・行かない」を決めるのはお子さん自身です。
お子さんがどんな気持ちでいても、今、目の前のありのままのお子さんを認め、受け入れてあげることが、保護者の方に求められることです。
【出典一覧】
*1 文部科学省|誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策(COCOLOプラン)
参考箇所:目指す姿