近年、認知が広がりつつある「HSC」という言葉を聞いたことのある方も多いのではないでしょうか?
日本語では「人一倍繊細な子ども」と訳されていますが、発達障がいと混同されがちで、その特徴を誤って認識されていることも多くあります。
この記事では、HSCの気質を持つお子さんの保護者の
「HSCって何?」
「HSCと発達障がいの違いを知りたい」
「子どもがHSCかどうか知りたい」
「子どもがHSCだったらどのように関わればいいの?」
などの疑問について解説していきます。
お子さんへの接し方の参考にしてみてくださいね。
HSCとは?「人一倍繊細な子ども」
HSC(エイチエスシー)は、Highly Sensitive Child(ハイリー・センシティブ・チャイルド)を略した言葉であり、「人一倍繊細な子ども」という意味があります。
これは、1996年にアメリカの心理学者エレイン・アーロン博士が提唱しました。
HSCの気質を持つお子さんは、生まれつき音や匂いなどの外的な刺激に影響されやすく、また他人の気持ちへの反応に敏感であるために、日常的に気疲れし、生きづらいと感じていることが多いです。
HSCは、長きに渡って「臆病」「引っ込み思案」など後天的な性質と混同されてきましたが、病気や障がいではなく、生まれ持った気質であることがわかっており、全人口の5人に1人、つまり約20%が該当するとも言われています。
HSCのお子さんはあらゆる刺激に対して敏感に反応してしまうため、たくさんのお子さんが集まっている学校での集団生活は疲れやすく、それが不登校の原因になることもあります。
HSCは病気なの?
HSCは病気ではありません。生まれ持った「気質」です。
しかし、HSCそのものは病気ではありませんが、その繊細すぎる特性からうつ病などの精神疾患を発症しやすいとされています。
HSCの治療法はありませんが、HSCから併発した病気については病院で治療を受けることで、心身ともに楽になる可能性があります。
また、注意していただきたいのが、HSCは「気質」であり、「性格」ではないということです。
性格は、人が育つ環境や接する人の影響によって幼少期に形成される後天的なものです。しかし「気質」は先天的なものであり、育つ環境により大きく変わることはありません。
HSCとHSP、発達障害の違いは?
HSCと似た言葉に、HSP(エイチエスピー)という言葉があります。
これは、Highly Sensitive Person(ハイリー・センシティブ・パーソン)の略で、「人一倍繊細な人」という意味です。
つまり、HSCは人一倍繊細な「子ども」に限定した言葉ですが、HSPは人一倍繊細な「大人」も含む言葉になります。
HSC・HSPは感覚過敏の特性があるため、発達障がいのASD(自閉症スペクトラム・アスペルガー症候群)などと誤解されることがあります。
しかし、発達障がいは、脳の一部の機能障がいにより脳内の情報処理や制御に偏りが生じている状態であるのに対し、HSC・HSPは、脳のはたらきには問題がなく、感受性が高すぎるために受け取る情報や刺激が多すぎて、処理が追いつけずに疲れてしまう、といった状態です。
HSCの子どもの特徴は?
HSCには、「DOES」(ダス)と呼ばれる4つの特徴があります。
D(Depth of processing):深く考える
よく考えすぎるあまり、人の言葉の裏を気にしてしまったり、行動できなかったりします。
物事のマイナスの側面を考えすぎてしまうことから、失敗を恐れて何事にも慎重になってしまいます。
たとえば、図工や美術などの授業で先生が「始めてください」と声をかけても、ほかのクラスメイトと同じペースで作業ができず、取り残されてしまう傾向があります。
O(Overstimulation):刺激を受けやすい
音や触感、気温の変化など、外的な刺激に非常に影響を受けやすく、それが感覚面での不快感につながり、ストレスを感じやすい傾向があります。
たとえば
・学校の休み時間にクラスメイトが騒ぐ声が苦手
・味覚や嗅覚に敏感で偏食傾向があり、給食が食べられない
・衣類の肌触りに過敏で、着られない服がある
などはHSCの特徴とも言えます。
E(Emotional and Empathy):感情的、共感力が高い
HSCの繊細さは、感覚面だけではなく、感情面にも強く現れます。
他人の気持ちへの共感能力が高く、映画やドラマの登場人物にも共感しすぎる傾向にあります。
良くも悪くも、さまざまなことを自分ごととして捉えるため、クラスの誰かが怒られていたり、いじめられているのを見ることに非常に苦痛を感じ、そういった場からは逃げ出したくなります。
S(Sensitivity to subtleties):些細なことを察知する
他の人の顔色の変化などを敏感に察知するため、不機嫌やイライラした感情に気づきやすく、気疲れしやすいです。
教室内のモノの位置が変わったことや、クラスメイトの髪型が少し変わったことにもよく気づき、「気の利く子」と言われる傾向にあります。
HSCのお子さんへの適切な接し方は?
では、保護者はHSCのお子さんにどのように接していけば良いのでしょうか。
HSPの気質を理解し、受け止める
大切なことは、「HSPの気質を理解し、受け止める」ことです。
HSPのお子さんは、日常生活をおくっているだけでも多くのストレスにさらされます。お子さんのつらい気持ちに寄り添い、お子さんの気持ちを受け止めてあげましょう。
「つらいね」とお子さんに寄り添い、共感することで、お子さんは「自分のことを分かってもらえている」と感じ、保護者に対して安心感が高まります。
意識的に休ませる
外部からの刺激に敏感すぎるため、何をしても疲れやすいお子さんが多いです。心身の疲労がたまらないうちに、早めに休むことを意識してください。
「学校は必ず行かなければいけない」という認識ではなく、「疲れていたら休んでもいい」という気持ちでお子さんに接することで、お子さんが追い込まれるリスクが減るでしょう。
急かさない
HSCのお子さんは、よく考えて行動するが故に周りのペースに合わせることが苦手です。
ゆっくりでも、お子さんのペースを見守ってあげてください。
急かしたり、無理強いすると、お子さんは萎縮してしまいます。お子さんが自発的な意志で行動し出すまで待ってあげることを心掛けてください。
「苦手」から距離を置けるようにする
苦手な場所や人から距離を置けるようにしましょう。無理をして我慢する必要はありません。苦手だとわかっているものには近づかず、避けることができるように、臨機応変に対応しましょう。
一言でHSCと言っても、どんなことに、どの程度繊細で、ストレスを感じるかはお子さんそれぞれです。保護者がお子さんに向き合い、寄り添った対応をしていくことが大切です。
HSCが原因の不登校のお子さんに対して、保護者ができる対応についてはこちらの記事で解説しています。
合わせてご覧ください。
HSCが不登校の原因に?周りからの刺激に敏感なお子さんの特徴と親ができる対応をご紹介 | ツナグバ-不登校ポータルサイト (shingaku-fs.jp)
お子さんがHSCかどうか判断する方法は?
HSCを提唱したアーロン博士の著書「ひといちばい敏感な子」で紹介されている、HSCかどうかを判断できる23の質問を紹介します。
以下の23個の質問のうち、13個以上がお子さんに当てはまる場合は、HSCである可能性が高いです。
また、当てはまった質問が13個以下だったとしても、その度合いが強い場合はHSCの可能性があります。
①すぐにびっくりする
②服の布地がチクチクしたり、靴下の縫い目や服のラベルが肌に当たったりするのを嫌がる
③驚かされるのが苦手である
④しつけは、強い罰よりも、優しい注意のほうが効果がある
⑤親の心を読む
⑥年齢のわりに難しい言葉を使う
⑦いつもと違う臭いに気づく
⑧ユーモアのセンスがある
⑨直感力に優れている
⑩興奮したあとはなかなか寝つけない
⑪大きな変化にうまく適応できない
⑫たくさんのことを質問する
⑬服がぬれたり、砂がついたりすると、着替えたがる
⑭完璧主義である
⑮誰かがつらい思いをしていることに気づく
⑯静かに遊ぶのを好む
⑰考えさせられる深い質問をする
⑱痛みに敏感である
⑲うるさい場所を嫌がる
⑳細かいこと(物の移動、人の外見の変化など)に気づく
㉑石橋をたたいて渡る
㉒人前で発表するときには、知っている人だけのほうがうまくいく
㉓物事を深く考える
HSCの強みは?
お子さんにHSCの気質が見られると、保護者は短所ばかりが目につくかもしれません。HSCは、その特性から生きづらさを感じるお子さんは多いですが、長所もたくさんあります。
ここでは、HSCの4つの強みをご紹介します。
気配り上手
相手が何を考えているかを察知できるため、何を求められているのかを理解し、細やかな気配りができる人が多いです。
人に迷惑をかけたくないという気持ちが強く、思いやりの心を持っています。
人の気持ちに共感できる
他人の気持ちに共感できるため、人に寄り添うことが得意です。
ミスが少ない
基本的に「完璧を目指したい」という気持ちが強いです。
時間がかかることがあっても、丁寧さが求められる仕事に根気強く取り組み、効果を発揮します。
危機管理能力が高い
直感が鋭いため、細かなことの変化に気づきやすく、危険を避けることが得意です。
HSCのお子さんは、完璧主義の傾向があるため、自分で自分を肯定することが苦手です。たくさんのクラスメイトと一緒に集団生活をおくる学校という環境が苦手なお子さんも多く、「自分はダメ」と感じてしまっていることも少なくありません。
だからこそ、保護者が思い切りお子さんの長所を褒めてあげてください。
お子さんが繊細だからこそできたこと、感受性が豊かだからこそ持っている感性など、お子さんの気質が決してマイナスばかりではなく、すばらしい長所であることを何度も伝えてあげてください。
保護者がお子さんの長所を褒めてあげることで、お子さんも「自分はこれでいいんだ」と自身を肯定的に捉えられるようになるでしょう。
HSCの子どもは不登校になりやすいって本当?
HSCの特性と、学校生活の相性は良いとは言えません。
さまざまなタイプのお子さんが集まって同じペースで集団生活をすることを求められる学校は、HSPのお子さんにとって、刺激が強すぎて、ストレスを感じやすい環境です。
たとえば、給食のにおいや体育館に響く声などに対して、毎日ストレスを感じている可能性があります。
また、他人に気を遣いすぎる傾向があるため、クラスメイトや先生とのコミュニケーションに気疲れすることも多いです。
こういった学校生活のストレスが積み重なることで、いつの間にか心のキャパシティが埋まって不登校になってしまう場合があります。
HSCのお子さんが不登校になった際の対応法についてはぜひこちらの記事を参考にしてください。
HSCが不登校の原因に?周りからの刺激に敏感なお子さんの特徴と親ができる対応をご紹介 | ツナグバ-不登校ポータルサイト (shingaku-fs.jp)
お子さんのHSCのこと、1人で悩まないで
近年、HSCという言葉をよく聞くようになったとはいえ、まだ世間での認知度が低いため、相談できるところは限られています。
HSCについて相談できる場所として、専門の先生が在籍している病院やカウンセリング、親の会などがあります。
まずは病院ですが、全国に数カ所、HSCに対応できる医療機関があります。お住まいの地域から通える範囲に病院がないか、調べてみてください。
カウンセリングは、スクールカウンセラーや心療内科などで受けられます。
ただし、HSCに理解が深いカウンセラーばかりではないため、注意が必要です。
病院とカウンセリング以外では、HSCの保護者が行うコミュニティや親の会など気軽に参加できるところもあります。同じ悩みを抱えている保護者に出会える可能性も高いので、話すことで気持ちが軽くなることもあるでしょう。
保護者が1人で抱え込んでしまわないためにも、悩んだときは相談しやすいところを見つけて行動してみてくださいね。