不登校のお子さんは、見た目にはわからない悩みを抱えている場合もあるため、無理をさせることは禁物です。また、周囲のサポートが必要不可欠です。ただ不登校のタイプにはいくつかの種類があり、それぞれ適切な対応が異なるため注意しましょう。この記事では不登校のタイプの1つである「情緒混乱型」の特徴や対応のポイントなどについて解説します。
※不登校のタイプの分類の仕方は変遷していますが、当サイトでは、文部科学省の「不登校状態が継続している理由」をもとに、不登校を7つのタイプに分類しております。
▶不登校の7つのタイプについて詳しく知りたい方はコチラ
(*出典1)文部科学省|不登校状態が継続している理由
情緒混乱型の特徴
情緒混乱型のお子さんは自分に厳しい点が特徴として挙げられます。感受性が豊かで内気な性格や完璧主義者なお子さん、不登校になる前は勉強やスポーツで優秀だった、いわゆる「優等生」タイプのお子さんにも多いといわれています。真面目な性格のため、学校に行けない自分に罪悪感や不甲斐なさを感じてしまうお子さんもいます。
登校前日は学校へ行く準備まで済ませ、登校への意欲はあるにもかかわらず、当日は元気がなく、体調不良を訴えたり部屋に閉じこもったりといった行動を取ります。体調不良のほとんどは原因不明です。ただ、登校時間以外は元気に過ごせる場合が多いです。
情緒混乱型の不登校の原因
情緒混乱型のお子さんには、真面目で完璧主義な子が多く見られます。特に、保護者に原因を話したがらない、保護者を頼ろうとしない傾向があります。無理に追求することはお子さんとの壁を作ることにつながりかねないため避けましょう。
ただ、保護者としては原因がわからないと対応できないでしょう。ここでは情緒混乱型の不登校の主な原因について紹介します。
分離不安がある
分離不安とは、親から離れる際に感じる強い不安のことです。幼少期や小学校低学年の頃によく見られる症状で、特に母親から離れることを嫌がります。母子分離という言葉で語られることも多いです。つまり、安心した状態から離れることへの不安が強いといえます。
分離不安があるため、安心ができず緊張感を抱え、クラスに上手く馴染めず、不登校になることがあります。また、お子さんだけではなく、保護者自身もお子さんと離れることに不安を感じていることが多いです。この場合、ただ無理に引き離そうとすると、より不安感を高めてしまうこともあるため、注意が必要です。
優等生の息切れ
情緒混乱型は、真面目な優等生によく見られるタイプです。保護者や学校の期待に応えようと自分を強く追い込み、頑張りすぎたことにより息切れを起こしている場合もあります。
周囲の期待が高いと、お子さんは周囲の期待に応えようと、本来持っている能力以上に頑張りすぎることになります。エネルギーを使い果たしてしまった結果、漠然とした不安から多くの不調がみられるようになり、通学が困難になります。
また、保護者側としても、それまでは問題なく期待に応えてくれていたように見えていたのに、突然学校に行くことが困難になってしまうと、戸惑いも強く感じるでしょう。場合によっては、保護者自身も同じく混乱し、体調不良になってしまうことがあります。そして、保護者の混乱や不安定さが、お子さんにも伝わり、負担が増して、症状を悪化させるという悪循環に陥ることも少なくありません。
保護者が先回りしてしまう
中には幼少期から保護者が危険の内容に先回りをして安全な状況にいることが多い状況で育ったため、周囲に比べて見知らぬ状態に不安を抱きやすく、1人で取り組みことに抵抗を示したり、自分で見通しを立てることが苦手で、不安を感じやすくなってしまったりすることがあります。それが原因で集団生活に馴染めずに学校に行けなくなってしまうこともあります。
また、自分の思うように物事が進まない中で、トラブルになったり、我慢することも増えてストレスを溜めたりするようなこともあります。
お子さんが1人でできるようなことでも、普段から保護者が先回りしてやってしまったり、手伝ってしまったりすることで、お子さんは経験を積むことや失敗をする機会を失ってしまうことがあります。良かれと思ってやってきたことが、お子さんを苦しめてしまうことにつながることもあるわけです。
生活基盤が不安定
進学や転校、両親の離婚や身近な人の不幸など、家庭内や生活環境の変化から、心の休息ができず、不登校になることもあります。通常であれば、お子さんは学校から疲れて帰ってきても、自宅で休息しエネルギーを蓄えることで次の日の活力を養います。
しかし、自宅で上手く休むことができなかったり、さまざまなエネルギーを消費するようなことが日々起きていたりすると、エネルギー切れを起こします。ストレスや不安、悲しみから自宅が安心して休める場所でなくなったため、多くのモヤモヤを溜め込み心身の不調をきたしてしまいます。
情緒混乱型のお子さんへの対応方法
成長過程のお子さんはそもそもまだ自我が確立されていなかったり、成長しているように見えてまだまだ不安定だったりすることも多く、心身のバランスを崩しやすい時期にあるといえます。ここでは情緒混乱型の不登校のお子さんへの対応方法について解説します。
分離不安が強い場合は保護者同伴の登校も検討する
分離不安があるお子さんは、保護者と離れることによって不安感を抱いています。そのため、保護者とともに登校するのであれば登校できる場合があります。保護者となら登校可能な場合は、その登校スタイルを学校側に認めてもらうのも1つの手です。
分離不安だけでなく、学校自体が怖い場合は、放課後に他の児童生徒たちがいなくなった状況で、校内を保護者とともに過ごすことで、少しずつ学校に慣れていくといった方法もあります。少しずつステップアップしていくことで、安心して通学できる基盤を整えてから、徐々に関心の対象を保護者から友人や勉強、遊びに向かうようサポートしていきましょう。
しかし、保護者同伴登校は周囲から冷やかしやからかいに遭う可能性や、それがいじめに発展してしまう可能性もあります。決してそのようなことがないように、学校側の他の児童生徒への指導やお子さんへの配慮を徹底する必要があります。心に大きな傷を作ってしまわぬよう、こまやかな連携と協力が必要不可欠です。
専門機関のアドバイスを受ける
情緒混乱型のお子さんのストレスは大きなものです。特に混乱している状態では、本心では思ってもいないような言葉を保護者にぶつけることもあります。「自分なんか生まれてこなければよかった」「お母さん/お父さんなんて大嫌い」などの言葉をぶつけられると、保護者もショックを受けてしまい、その言葉の裏にある想いを受け止めきれず、喧嘩になったり、共倒れになってしまったりするケースも少なくありません。
保護者や学校だけでお子さんの不安や感情をを受け止めきれない場合には、情緒が混乱しがちなお子さんとの関わり方などについて、専門家の力を借りるのも良い方法です。不登校専門の機関や、お子さんを対象としている心療内科や思春期外来、もしくは学校のスクールカウンセラーへの相談も1つの選択肢です。
小児科などでは、育児に関する悩みごとを聞いてくれる小児科医やカウンセラーなどがいる場合があるため、まずはお住まいの地域の思春期外来や自治体の教育相談などに訪ねてみるのも良いでしょう。お子さん自身の相談だけではなく、保護者からの相談も受け付けてもらえます。専門家のアドバイスを受け、上手く連携を取りながら最適な方法を検討していきましょう。
また、情緒的混乱の背景には精神疾患などがある可能性もあり、その場合は投薬治療などが有効な場合もあります。10代のお子さんには慎重なスタンスをとる医師もいますが、本人や保護者の意向、症状の程度などに応じて治療方針を主治医と検討していくことも大事です。
学校以外の学びの場の利用を検討する
情緒混乱型のお子さんは情緒的に安定し、落ち着いていられている状況下であれば、勉強への意欲や集中力が保てることがあります。気持ちが乱れたとしても、休息をとり、心に余裕が生まれると学習意欲が出てきたり、取り組めたりすることも多いです。
勉強や進学への意欲が見られるのであれば、学校という集団生活の中で周囲に気を配りながら過ごすよりは、自分のペースで勉強に取り組める学校以外の学びの場の利用を検討してみるのも選択肢の1つです。
市区町村の教育委員会が、長期欠席をしている不登校状態の小・中学生を対象に、籍のある学校とは別に、市区町村の公的な施設で学習の援助をしながら本籍校に復帰できることを目標に運営している教育支援センター(適応指導教室など名称はさまざま)などもあります。また、通信制の学校への転入やフリースクールへ通うという選択肢もあります。
教育支援センターは、少人数での関わりを持つことや、学習する場などとして利用することができます。利用の仕方や機能は地域によっても特色が異なる場合もあります。大人数の場で過ごすことは苦手なお子さんも、少人数の環境であれば落ち着いて過ごせるような場合があります。
勉強を続け、目標を見つけることができると、将来への希望が湧き、次第に、抱えている不安が軽減していく場合もあります。今後の進路を考えることは、どのお子さんにとっても避けては通れません。高校に行くのか、大学に行くのか、専門学校に行くのか、はたまた就職をするのかといった将来の選択肢をともに考えるのは保護者の役割の1つともいえるでしょう。苦しくなったら辞めてもいいこと、いつでも一番の味方であること、選択肢はたくさんあることなど将来への可能性も交えつつ支えていきましょう。
また、不登校のお子さん向けに「出席扱い制度」というものもあります。文部科学省が認めている制度で、学校が認めれば自宅で学習をしていても出席扱いになるという制度です。文部科学省はこういった制度とともに、お子さんの希望をできる限り尊重したうえでフリースクールなどに通うことを推奨しています。出席できていないことが不安につながっているお子さんも少なくはないため、出席が認められるのであれば、それが安心につながる場合もあるようです。
(*出典2)文部科学省|「不登校児童生徒への支援の在り方について(通知)」令和元年10月25日
出席扱いについては、以下の記事で詳しく解説しています。ぜひご覧ください。
▶︎フリースクール・ICTでの学習は出席扱いされる?要件やフリースクール選びのポイントを解説!
情緒混乱型のお子さんへの対応のポイント
日々感情の変化が大きく、自分を責めてしまっている真面目な情緒混乱型のお子さんに対して、保護者はどのように対応したら良いのか、迷ってしまうことがあるでしょう。ここでは保護者の方向けに情緒混乱型のお子さんへの対応のポイントを解説します。
お子さんの考えを否定しない
情緒混乱型で不登校やひきこもりになってしまったお子さんは、心も身体も疲れ切っています。これまでのお子さんの頑張りを認め、今はゆっくり休んでいいと声をかけてみましょう。
遊んでいるだけのように見えても、実は心を休める大切な時間であることも少なくありません。「少しは勉強したら?」といった学校に関するような声かけは逆効果になる場合があります。ただでさえ弱ってしまっているお子さんに、さらなる罪悪感を植え付けるようなことは避けたほうが良いでしょう。感情が不安定な状態のため、いかに安心の土台を作るかが重要です。
時には感情の変化に対応しきれずに、保護者につらい言葉や無理な要求、暴力的な行動にでるかもしれません。不安や胸の内を吐き出してきた場合は、否定はせずにすべて吐き出させましょう。しかし、暴力的な行動が生じた時には、ダメなものはダメであると伝えることも時には求められます。
また、お子さんの頑張りや睡眠の時間などの小さな変化にも目を配りましょう。自分が誰にも見放されていないことや、家族に認められていることに安心し、不登校への罪悪感や将来への不安感が薄れ、今の自分を認められるようになります。
自己肯定感が高まりエネルギーが溜まると、自然と登校への意欲にもつながるでしょう。焦らず、お子さんのペースに合わせた支援が必要となります。
保護者の気持ちの安定も必要
保護者の精神的な不安や迷いはお子さんに伝わり、更なる症状の悪化につながります。不登校になってしまった原因は、お子さんの甘えでも保護者の育て方のせいと簡単に言い切れるものでもありません。その環境との適応なども多いものです。
これまでの自分を責めるのではなく、これからどうお子さんと信頼関係を作っていくのかが大切です。特に、情緒が混乱しがちなお子さんの場合は、いかに安心できるかが重要です。お子さんのサポートに徹していて心が辛くなってしまったら、頼れる親族や相談機関に相談し、保護者自身も気持ちを安定させましょう。
学校や専門機関と連携する
情緒的な混乱型の不登校は、お子さん本人も不安定ですが、保護者自身も不安定になってしまうようなケースが少なくありません。そしてその結果、家族の仲が常に緊張状態になることもあります。お子さんの不安の原因が、これまでの甘やかされや分離不安の場合、家庭内での解決は困難かもしれません。学校や専門の機関と連携し、お子さんの自立を図る必要があります。甘やかされが原因の場合は、1つずつ成功体験を積み重ねて自立をサポートします。
また、分離不安が原因の場合は、まずは保護者同伴の登校からスタートし、保護者がいなくても学校生活が送れることを学校と連携して少しずつ伝えていきます。保護者自身もお子さんへの接し方を見直し、問題解決に努めましょう。
家庭内だけで解決しようとする必要はなく、学校や不登校に関するプロの意見が役立つことも多いはずです。外部の機関と必要な連携を取ることが大切です。
まとめ
情緒混乱型のお子さんは、周りからの高い期待に応えようとして息切れを起こすことや、不安な状況への愛時が苦手で、集団に馴染めないことなどが原因で不登校になることが見られます。特に、真面目に物事をやろうとするお子さんも多く見られ、それがうまくできないことに対して感情的になってしまうことも少なくありません。
保護者の対応としては、お子さんの考えを否定せず、保護者自身も精神的に安定し、お子さんとともに安心できる関係を維持することが大切です。通学することだけでなく、学校以外の学びの場として教育支援センターや通信制の学校、フリースクールなどの利用も検討し、安心の土台を作っていきながら、焦らずゆっくりと本来の元気な姿を取り戻していきましょう。
【出典一覧】
*1 文部科学省|不登校状態が継続している理由
参考箇所:冒頭
*2 文部科学省|「不登校児童生徒への支援の在り方について(通知)」令和元年10月25日
参考箇所:学校以外の学びの場の利用を検討する
【監修者コメント】
情緒混乱型のお子さんについては、安心が不足している状態ともいえるかと思います。
不安や緊張、恐れ、などが強い状態では、足場がふらついたような状態でもあるため、落ち着いて学校生活を送ることが難しく感じていることから、不登校になることもあるかと思います。
関わり方などは、ケースバイケースであることは他のタイプでも同様ではありますが、情緒混乱がみられるような場合は、安心感を育てることに主軸をおきながら、生活の仕方や関わり方を考えると良いかと思われます。
以下の書籍などは、まさに安心の種を育てることが様々記載されているので参考になるかもしれません。