近年、不登校の児童生徒が年々増え続けていることについて、耳にしたことのある方は多いかもしれません。
不登校のお子さんを持つ保護者の中には、お子さんの将来に関する不安を感じている方も少なくありません。
実際、ツナグバが実施したアンケートでは「子どもの不登校で保護者が心配していること」として、1位の「勉強の遅れ」(36.6%)に次いで「将来の心配」(28%)が2位となっています。
今回の記事では、不登校のお子さんが選べる将来や保護者がお子さんの将来のためにできることについて、詳しく解説していきます。
不登校の中学生の将来は?統計データから見る進学と就職の割合について
お子さんが不登校になると、お子さんの将来について心配になりますよね。
しかし、不登校になった人は、それぞれに合ったやり方で学校復帰・社会復帰していく場合が多いです。
ここでは、文部科学省の調査をもとに、不登校経験者の実態について見ていきましょう。
中学校卒業時点での進路状況
文部科学省の調査では「不登校だった中学3年生のうち、中学校を卒業した後すぐの時点で進学・就職をしている割合は91.1%」というデータが示されています。
これは、不登校状態の中学生の多くが、中学卒業後、何らかの形で学校復帰・社会復帰していることを示しています。
つまり、不登校の経験があったとしても、その後進学や就職ができないわけではないと言えるでしょう。
(*出典1)文部科学省|不登校に関する実態調査報告書 第1部 調査の概要 ・ 第2部 基礎集計編
20歳時点の進路状況
では、中学卒業から5年後の20歳時点では、どのような進路状況になっているのでしょうか。
文部科学省のデータによれば、中学3年生時点で不登校だった人のうち、20歳時点で就学・就業している人の割合は81.9%となっています。
このことからも、不登校経験者の多くが20歳時点では社会復帰していることがわかります。
(*出典2)文部科学省|不登校に関する実態調査報告書 第3部 分析編(3) ・ 第4部 ケース分析
20歳時点では自分の成長を感じている人も多い
文部科学省の統計によると、中学3年生の時に不登校を経験した人の中で、20歳になって成長を実感していると答えた人は92.9%に上りました。
つまり、不登校を経験した人の多くが5年間の間に何らかの変化や進歩を感じていると言えます。
具体的に「成長を感じたところ」としては、以下のような内容が回答がありました。
- 人の痛みがわかるようになったり、人に対して優しくなったこと 48.1%
- 自分で働いて収入を得ようとすること 46.9%
- 身のまわりのことが自分でできること 45.6%
- 人とうまくつきあえること 45.6%
- 生活のリズムがつくれ ること 38.0%
これは、不登校経験が必ずしも悪い結果をもたらすわけではないことを示しています。
特に「人の痛みがわかるようになったり、人に対して優しくなったこと」のように、不登校を通じて得られた価値観や考え方は、お子さんの大きな強みとなるでしょう。
(*出典1)文部科学省|不登校に関する実態調査報告書 第1部 調査の概要 ・ 第2部 基礎集計編
不登校の中学生が選べる進路
前述のように、中学校で不登校だからといって、進学や就職ができないわけではありません。
ここからは、不登校の中学生が選べる進路について、詳しく解説します。
進路①高校に進学
不登校の中学生でも、高校への進学は十分可能です。
ただし、欠席日数が多い不登校の生徒は「内申点が低い」あるいは「内申点がつかない」場合も多く、高校受験で不利になりやすい傾向があります。
そのため、進学先となる高校選びは慎重に行う必要があるでしょう。
内申点を重視しない高校や不登校枠を設けている高校もあるので、学校の先生や気になる高校に確認してみるとよいでしょう。
内申点が足りずに全日制高校に入学できない場合は、定時制高校や通信制高校などの選択肢もあります。さまざまな選択肢を考えながら、お子さんの意向に沿った進路を一緒に考えてあげましょう。
また、気になる高校が見つかったら、高校選びに失敗しないためにも、学校説明会に参加しておくことをおすすめします。
不登校からの高校受験について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
進路②高校以外の学校に進学
高等専修学校や高等専門学校(高専)など、高校以外の学校に進学する選択肢もあります。
高等専修学校は、工業・農業・医療・服飾・家政など、実践的な職業教育を行う学校です。
高等専門学校(高専)は、工業系や商船系など専門的な知識を学ぶ5年制の学校です。
どちらも専門分野に特化した授業が行われるため、自分の好きな分野があり、その分野について詳しく学びたいというお子さんにはおすすめの進学先です。
進路③高等学校卒業程度認定試験(以下、高卒認定)を取得し、大学などに進学
さまざまな事情で高校に通うのは難しいけれど、将来的に大学や専門学校への進学を目指す場合は、高卒認定を取得するという選択肢もあります。
高卒認定試験とは、文部科学省が実施する試験で、合格すれば「高校卒業程度の学力がある」と認められます。
通学の必要がないのは、不登校のお子さんにとって、大きなメリットと言えるでしょう。
注意点として、高卒認定を取得しても、最終学歴は「中学校卒業」のままである点は把握しておきましょう。
不登校からの大学進学について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
▶不登校でも大学受験はできる?入学資格、受験勉強のポイント、保護者ができることを解説!
進路④海外留学
「日本の学校が合わない」と感じているお子さんの場合、海外留学を検討してみるのもよいでしょう。
海外留学をすると、大きく環境を変えられるため、挑戦や環境の変化をポジティブに受け止められるお子さんにはおすすめの選択肢です。
ただし、留学すれば必ずうまく行くわけではないこと、デメリットやリスクもあることも留意しておいてください。
留学におけるデメリットやリスクの例は、以下の通りです。
- 数十万円~数百万円の費用がかかる
- 日本の学業とシステムが違う
- 文化・習慣の違いによるストレス
不登校海外留学について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
▶小学生・中学生から行ける不登校海外留学のメリット・デメリットを解説します。
進路⑤アルバイト・就職
中学卒業後、そのまま働くというのも一つの選択肢です。
若いうちから実務経験を積んでおくことで、人間として成長できたり、視野が広がったりするかもしれません。
しかし、中卒での就職は、高卒や大卒と比べて選択肢がかなり限られるのも事実です。
実際、応募条件が「高校卒業以上」となっている求人も少なくありません。
もちろん、中卒での就職がダメなわけではありませんが、お子さんの将来の選択肢を広げるためにも、高等学校等への進学や高卒認定の取得も選択肢に入れながら、お子さんと相談してみてください。
不登校からの就職について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
▶不登校は就職に影響する?不登校経験を就職に活かすための考え方を解説
不登校経験者が将来直面する可能性のある困難とは?
ここからは、不登校経験者が将来直面する可能性のある困難について解説します。
どんな困難に直面する可能性があるのかを事前に把握しておけば、お子さん自身や保護者の方がするべき対策も見えてくるはずです。
不登校経験者がどんな困難に直面しているのかを確認しながら、対策を考えてみましょう。
学力が不足してしまう
不登校で学校に行かない期間が長くなると、学力が不足してしまう場合があります。
学力不足が原因で進路の選択肢が制限されたり、進学先での勉強や就職先での仕事などで苦労したりすることも少なくありません。
このような困難を避けるためにも、不登校中でもできる範囲で勉強を続けておくことが大切です。
一人での勉強が難しい場合は、塾や家庭教師、フリースクールなどを活用してみましょう。
最近ではオンライン型のフリースクールもあるので、何らかの事情により通学が難しい場合はオンラインフリースクールも検討してみるのをおすすめします。
就職の選択肢が限られる
小学校や中学校で不登校になったお子さんの中には、高校への進学を避けるお子さんも少なくありません。
しかし、中卒で就職しようとすると、選択肢が限られてしまうのが実情です。
そのため、できれば高等学校等への進学や高卒認定の取得などを目指すのをおすすめします。
また、不登校期間中に家の中で過ごす時間が増えると、運動不足になることも多く、実際に働き始めた際に、体力的な負担を感じやすいです。
特に、中卒からの就職では、力仕事や警備員などの体力を必要とする仕事が多くなります。
運動不足の状態からいきなりそのような仕事を始めてしまうと、体力が追いつかず、退職せざるを得なくなるケースもあります。一度体を壊してしまうと、再び働くことが難しくなることもあるため、注意が必要です。
体力が低下したり不足したりする
不登校になると、外にあまり出なくなり、家の中で過ごす時間が増えます。
外に出ない生活が続くと、体力が低下したり、体力不足になってしまいます。
そうなると、すぐに疲れるようになってしまい、学校復帰や社会復帰に向けて動こうとしても、思うように動けないことがあります。
体力不足にならないためにも、普段の生活の中で体を動かす機会を作っておくのがおすすめです。ただし、不登校状態のお子さんの中には、なかなか動きたがらないお子さんもいるので、無理のない範囲を心がけましょう。
生活リズムが乱れてしまう
不登校のお子さんの中には、昼夜逆転が習慣化し、生活リズムが乱れてしまっているお子さんも少なくありません。
実際に、文部科学省が行った「令和2年度不登校児童生徒の実態調査 」によれば、不登校になった最初のきっかけとは別の学校に行きづらくなる理由として「生活リズムの乱れ」が上位にあがっています。
生活リズムが乱れていると、学校や仕事にも行きづらくなってしまいます。また、正しいリズムに直そうとしてもなかなか戻らず悩んでしまうケースも少なくありません。
そのため、不登校期間中であっても「起きる時間や寝る時間を一定にする」「日中は運動や趣味などに取り組む」といったことを無理のない範囲で心がけるとよいでしょう。
他人との関わりに不安を感じる
学校は、教科書の知識を学ぶだけでなく、友人や先生との関わりを通じてコミュニケーションの基本を身につける場所でもあります。
不登校が長く続いている場合、他者と接する機会が少なくなるため、コミュニケーション力や社会性が低くなってしまうケースも少なくありません。
そのため、不登校だったお子さんは就職先での人間関係など、他人との関わりに不安を感じる可能性があります。
不登校の中学生とその保護者のための相談先
不登校は、本人と家族だけでは解決が難しい場合も少なくありません。
また、無理に家庭内だけで対処しようとすると、お子さんの状態が悪化してしまい、不登校が長引いてしまう恐れもあります。
ここからは、不登校の中学生とその保護者のための相談先について紹介します。
先生・スクールカウンセラー
お子さんに不登校の傾向が見られたら、まずは学校や担任の先生に相談してみましょう。
学校に相談すれば、お子さんの学校での様子がわかり、不登校の原因やきっかけが明らかになるかもしれません。原因が分かれば、学校側と協力しながら具体的な対応策を考えていくこともできるでしょう。
たとえば、「お子さんが出席しやすい授業はあるか」「保健室登校ならできるか」など、お子さんの希望を聞きながら、一緒にサポート方法を考えることもできます。
また、スクールカウンセラーに相談してみるのもおすすめです。スクールカウンセラーとは、学校において、お子さん・保護者・教員の悩み相談やメンタルケアを行う教育心理専門家です。
スクールカウンセラーに相談することで、お子さんとの接し方や家庭での過ごし方など、不登校の保護者の悩みに寄り添った具体的なアドバイスがもらえます。
教育支援センターなどの公的機関
不登校の支援を行っている公的機関も不登校のお子さんと保護者が利用できる相談先の一つです。
教育支援センター(適応指導教室)とは、不登校児童に対するカウンセリングや学習指導、体験学習のサポートなどを行っている公的機関です。各都道府県・市町村に1,634カ所設置されており、お子さんだけでなく保護者も悩みを相談できます。
その他にも、「児童相談所」「保健所」「精神保健福祉センター」など、さまざまな公的機関が全国に設置されています。
対面だけでなく、電話での相談も行っている機関もあるため、まずは一度連絡してみてもよいでしょう。
教育支援センターについて詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
▶教育支援センター(適応指導教室)ってどんなところ?!目的やできること、フリースクールとの違いを徹底解説!
(*出典3)文部科学省|令和3年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について
フリースクール
不登校が長引いている場合、お子さんの居場所や勉強面でのサポートについても考える必要があります。そんなときは、フリースクールなどの民間施設に相談してみるのもよいでしょう。
フリースクールとは、何らかの事情により学校に通うことが難しいお子さんに、学校に変わる「第二の居場所」を提供している施設です。
フリースクールは、各スクールで支援の内容や教育方針がさまざまであるため、お子さんの状況に合わせてフリースクールを探してみてください。
[フリースクールの特徴の例]
- 勉強の遅れを取り戻すことを目的としたフリースクール
- 活動内容はお子さんに任せられているフリースクール
- 活動する気力が湧いてくるまでの居場所を提供するフリースクール
- スタッフが自宅に訪問してくれるフリースクール
フリースクールについて詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
▶フリースクールとは?基本情報から学費・進学可否まで幅広く解説
不登校のお子さんの将来のために、保護者の方が今できること
不登校のお子さんの将来のために、保護者の方ができることももちろんあります。
ここでは、不登校のお子さんの将来のために、保護者の方が今できることについて、いくつか紹介します。
お子さんとゆっくり話し合う
不登校状態のお子さんは、将来に対する不安や悩みなど、さまざまな気持ちを抱えています。そのため、親子でゆっくり話しやすい環境を整え、お子さんの声に耳を傾けることが大切です。
お子さんとゆっくり話し合いをすることで、不登校になった原因やお子さんの気持ちを理解することができます。
ただ、不登校の原因はお子さんによってさまざまであり、本人も原因がわかっていない場合や複数の要因が絡みあっている場合もあるので、原因を特定することにこだわりすぎないようにしましょう。
まずは、お子さんの気持ちや考えをしっかりと聞き、理解し、適切なサポートをしてあげることが大切です。
専門家に相談する
不登校の原因やお子さんの状況によっては、家庭内だけでの対処が難しい場合もあるでしょう。
特に、不登校の原因がわからなかったり、親子での話し合いが難しいと、家庭内で適切な対応をとることは難しいかと思います。
そのような場合、専門機関でカウンセリングを実施してもらうことで、お子さんの状況に合わせた指導・支援が可能となります。
そのため、家庭内だけでの対処が難しい場合は、抱え込まずに専門家に相談することをおすすめします。
学校以外の居場所を提案する
不登校のお子さんにとって「自分の居場所があること」はとても大切です。近年、不登校の児童生徒が増加傾向にあることを受け、国も不登校児童生徒のためのサポートや学校以外の教育機会の確保を進めています。
居場所の例としては、フリースクールやスポーツクラブ・音楽教室などの習い事があります。
自分の存在を承認してくれる居場所ができると、お子さんは将来について前向きに考えられるようになります。
そのため、お子さんと話し合いながら、お子さんに合った居場所を見つけるようにしましょう。
【まとめ】お子さんの気持ちを第一に考えつつ、必要に応じて専門家への相談も
不登校のお子さんの将来について、保護者の方が心配するのは当然です。
しかし、不登校の経験があっても、その後進学や就職ができないわけではありません。実際、不登校の中学生の将来として、20歳時点で、約8割が就学・就業しています。
お子さんの声に耳を傾けながら、不登校経験を後悔しないように、しっかりとサポートしていきましょう。
また、家庭だけでの対応が難しい場合には、専門家や相談機関に相談することも大切です。
お子さんの意向に合わせて、ご自身たちに合った方法での解決を目指しましょう。
【出典一覧】
*1 文部科学省|不登校に関する実態調査報告書 第1部 調査の概要 ・ 第2部 基礎集計編
参考箇所:中学校卒業時点での進路状況、20歳時点では自分の成長を感じている人も多い
*2 文部科学省|不登校に関する実態調査報告書 第3部 分析編(3) ・ 第4部 ケース分析
参考箇所:20歳時点の進路状況
*3 文部科学省|令和3年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について
参考箇所:教育支援センターなどの公的機関