お子さんが不登校状態の場合、保護者の方はお子さんの将来や進学先など不安がつきないかと思います。
特に大学受験を検討している高校生のお子さんに関しては、高校卒業のための出席日数や、勉強が遅れるなど、悩みを抱える保護者の方は多いのではないでしょうか。
しかし、不登校でも大学受験をするための方法はいくつかあります。
この記事では、不登校から大学に進学するためのポイントや、保護者としてできることなどについて解説していきます。
不登校でも大学進学できる?大学の入学資格を確認しよう
そもそも大学に入学するためには、どのような条件が必要なのでしょうか?
文部科学省によれば、大学に入学するための条件として、以下のいずれかを満たすことが必要となっています。
・高等学校(以下、高校)または中等教育学校の卒業
・高等学校卒業程度認定試験(以下、高卒認定)の取得
・その他の資格
(参考)大学入学資格について 文部科学省
出席日数については大学に入学するための条件に入っていないため、入学条件を満たせば不登校であっても大学受験は可能です。ただし、高校で進級・卒業するためには一定以上の出席日数が必要な場合があります。
まずは、それぞれの資格について見ていきましょう。
【資格①】高校または中等教育学校の卒業
大学入学資格の1つ目は「高校または中等教育学校の卒業」です。
国に認められた高校・中等教育学校を卒業することで、自動的に大学入学資格が得られます。
※中等教育学校とは、中高一貫校を指します。
高校は、勉強する時間帯や場所の違いによって「全日制高校」「定時制高校」「通信制高校」の3種類に分けられます。
それぞれ、以下のような特徴があります。
全日制高校・・・主に平日の朝から夕方まで登校し、授業を受ける高校です。
定時制高校・・・夜間など、特別な時間帯や特定の時期に登校し、授業を受ける高校です。
通信制高校・・・自宅で教科書や動画授業を中心に勉強する高校です。課題やレポートを通して学習を進めます。
また、全日制・定時制・通信制のどのタイプの学校も、勉強する内容によって「普通科」「専門学科」「総合学科」の3種類の学科に分けられます。
どの課程・学科の高校を卒業しても、大学入学資格として認められます。
※厳密には「高校または中等教育学校卒業見込み」であれば受験できます
【資格②】高等学校卒業程度認定の取得
大学入学資格の2つ目は「高等学校卒業程度認定(以下、高卒認定)の取得」です。
文部科学省が実施する試験である「高等学校卒業程度認定試験」に合格することで取得できます。取得すると「高校卒業程度の学力がある」と認められ、大学入学資格が得られます。
つまり、高校を卒業していない人でも高卒認定を取得することで、大学受験ができるのです。
高卒認定は、8月(第1回)と11月(第2回)の年2回行われており、例年、以下のようなスケジュールとなっています。
■高卒認定のスケジュール目安
第1回 | 第2回 | |
受験案内 | 4月上旬配布開始 | 7月中旬配布開始 |
出願期間 | 受験案内配布開始日~5月上旬 | 受験案内配布開始日~9月中旬 |
試験日 | 8月上旬 | 11月上旬 |
結果通知 | 8月末発送 | 12月上旬 |
試験科目は、国語・英語・数学などを含む8〜10科目で、全ての科目に合格する必要があります。
科目数が多くて大変だと感じるかもしれませんが、1回の試験で全ての科目に合格する必要はありません。一度合格した科目については次回以降は試験免除となるため、複数回に分けて合格すれば高卒認定が取得できます。
また、高校在学中の人あるいは中退した人は、修得した単位の状況によって一部の科目の試験が免除される場合もあります。
【資格③】その他の資格
高校卒業や高卒認定取得以外にも「高等専門学校(以下、高専)で3年次修了」や「一部の専修学校の高等課程卒業」なども大学入学資格として認められています。
高専は、ほとんどが5年制で、高校と大学を合わせたような学校です。
1年生から実験や実習を積極的に行うため、実践的な知識が修得できます。高専の場合は、3年次を修了することで大学入学資格を得ることができます。
専修学校の高等課程は、社会で役立つ実践的な職業教育を行う学校です。専修学校の場合は、すべての学校で大学入学資格を得られるというわけではなく、文部科学大臣が指定した専修学校の高等課程を卒業した場合に大学入学資格を取得できます。
(*出典1)文部科学大臣指定専修学校高等課程一覧
まだ中学生で、実践的な知識や技術を修得したいという人は、高専や専修学校の高等課程への進学も候補の一つとして考えてみてください。
また、大学によっては個別の入学資格審査を行っているところもあり、この入学審査に合格することでも大学入学資格が得られます。個別の入学資格審査の有無や内容は大学によって異なるため、入学したい大学の募集要項を確認してみてください。
(*出典2)入学資格に関するQ&A
不登校から大学進学を目指す方法8選
ここからは、不登校の人(あるいは不登校だった人)が大学進学を目指す方法を8つ紹介します。それぞれの方法について、メリット・デメリットなどを解説していきます。お子さんにあった方法を探してみてください。
①全日制高校の卒業
1つ目の方法は「全日制高校の卒業」です。
全日制高校を選ぶメリットとしては、学校数が多く、選択肢が多いことが挙げられます。一方で、出席日数が足りなかったり、成績が悪かったりすると留年の可能性もあります。
しかし、高校生で不登校状態のお子さんの場合でも、提出物やテストの成績によっては進学可能な場合がありますので学校に相談してみるのもいいでしょう。
現在不登校状態の中学生のお子さんの場合、全日制高校への進学が選択肢に入るかもしれません。
人間関係が原因での不登校の場合、家から遠めの高校を選ぶことで人間関係が新しくなるため、また学校に通うことも選択肢に入れてみるのもいいでしょう。
②定時制高校の卒業
2つ目の方法は「定時制高校の卒業」です。
定時制高校は、不登校の(不登校を経験した)中学生・高校生いずれにもおすすめです。
定時制高校は、夜間など特定の時間に授業を行う学校です。具体的には「夜間定時制」「昼間二部定時制」「三部制」の3つのタイプの学校があり、それぞれ以下のような時間帯に授業を行います。
「夜間定時制」・・・夜に授業を行う
「昼間二部定時制」・・・朝の部/昼の部で授業を行う
「三部制」・・・朝・昼・夜の三部で授業を行う
このように定時制高校では、授業を行う時間帯が決まっています。
お子さんの通いやすい時間帯で学校に通うことができる点は大きなメリットになるでしょう。
また、定時制高校には、不登校経験者・高校を中退した人・働きながら高校に通う人など、さまざまな事情のある生徒が多いです。そのため、不登校のお子さんであっても、周りに理解してもらいやすいので、気の合う友人を作りやすいかもしれません。
定時制高校のデメリットとしては、全日制高校と比べて授業内容が優しいため、大学進学を目指すには学習内容が足りないということが挙げられます。定時制高校から大学進学を目指す場合には、予備校や家庭教師などを利用しながら勉強していくのがおすすめです。
また、定時制高校は1日の授業時間が少ない場合が多いため、卒業までに4年間かかることもある点に注意しましょう。3年間で卒業できるコースのある定時制高校もありますが、その場合、1日あたりの授業時間を5〜6時間に増やさなければなりません。
3年間で高校を卒業し、大学受験をしたいという場合は、卒業までの年数も調べながら学校を選ぶようにしましょう。
③通信制高校の卒業
3つ目の方法は「通信制高校の卒業」です。
通信制高校では、教科書や参考書、動画授業を中心に勉強していきます。したがって、基本的には家から出ることなく学習を進めることができます。
ただし、月に数回程度は登校日があり、その時は学校に登校して、面接指導(スクーリング)や体育の授業などを受けます。
通信制高校に進学・転校するメリットは以下の通りです。
- 基本的には通学しなくてもよいため、学校に行くことが苦手でも卒業しやすい。
- 単位制なので、自分のペースで勉強できる。
- 留年がない。
- 受験が面接のみという場合も多く、進学・転校しやすい。
- 厳しい校則に縛られることがない。
一方で、以下の点には注意しなければなりません。
- 自学自習がメインなので、苦手な科目や単元が解決しづらい。
- 勉強のペースを自分で管理しなければならない。
- 人間関係が希薄になりがち。
通信制高校の中には、通信制高校の卒業に向けたサポートを行ってくれる「サポート校」を設けている学校もあります。自分の力だけで勉強していくことが難しそうな場合は、サポート校のある通信制高校も検討してみましょう。
④高等専門学校の3年次を修了
4つ目の方法は「高等専門学校(以下、高専)の3年次を修了」です。
高専は、工業系や商船系など専門的な知識を学ぶことができる5年制の学校です。1年制から実験や実習の授業を行うことが多く、実践的な知識やスキルを身につけることができます。
高専では専門的な授業が多いため、車・船・ロボット・プログラミングなど、自分の好きな分野があり、好きな分野についてしっかりと学びたい、将来は好きな分野を活かした仕事に就きたいといった明確な目標がある不登校生にはおすすめの進学・転校先です。
しかし、専門的な授業が多く、一般教養科目の授業が少ないため、工学・技術系のことにあまり興味のないお子さんにとってはあまり良い進学・転校先にはならないでしょう。
お子さんの性格との相性をしっかりと考えたうえで、学校を選ぶことが大切です。
⑤指定された専修学校の高等課程を卒業
5つ目の方法は「指定された専修学校の高等課程を卒業」です。
専修学校の高等課程では、工業・農業・医療・服飾・家政など、実践的な職業教育を行う学校です。
専修学校の高等課程についても、高専同様、専門分野に特化した授業が行われるので、大学進学に向けた勉強としてはあまり向いていません。そのため「不登校から大学進学を目指す」という意味ではおすすめしません。
⑥在籍している高校を別室登校で卒業
6つ目の方法は「在籍している高校を別室登校で卒業」です。
別室登校は、現在高校生のお子さん向けの方法です。
別室登校とは、教室で授業を受けることが難しいお子さんが、保健室やカウンセラー室など、自分の教室以外の場所に登校することを言います。通っている高校によっては、別室登校をすることで出席とみなされる場合もあるため、気になる場合は通っている高校に確認してみてください。
在籍している高校を卒業できるため、転校の手間などはありませんが、通常の授業を受けないため、基本的には自分で勉強していく必要がある点には注意しましょう。
学校の先生と相談しながら、お子さんに合った方法を探してみてください。
⑦高卒認定の取得
7つ目の方法は「高卒認定の取得」です。
高等学校卒業程度認定試験に合格すれば、高校に通うことなく、大学受験資格が得られます。高校に通う必要がないという点は不登校のお子さんにとって、大きなメリットといえるかもしれません。
また、他にも以下のようなメリットがあります。
- 自分の好きなタイミングで勉強し、受験できる。
- 学校に通う必要がないため、自由に使える時間が増える。
- 試験科目の免除制度がある。
- 高校の学費が不要になる。
ただし、高卒認定には、以下のようなデメリットもあります。
- 高卒認定を取得しても、最終学歴は「中学校卒業」のまま
- 対策しなければならない科目が多い
- 高校生活を体験できない。
- 友達を作る機会が少ない。
高卒認定はメリットも多い反面、デメリットもあります。お子さんの状況とメリット・デメリットを比較しながら検討してみましょう。
また、現在中学生のお子さんの場合、高校進学せず、高卒認定取得を目指すという方法はあまりおすすめではありません。なぜなら、中学校では不登校でも、高校に入学し、環境がリセットされることで不登校が克服できる場合も多いからです。中学生のお子さんの場合、はじめから高卒認定取得を目指すのではなく、まずは自分に合った高校がないか探すところからはじめてみましょう。
⑧フリースクールの利用
8つ目の方法は「フリースクールの利用」です。
フリースクールとは、さまざまな事情で学校に通うのが難しい小・中・高校生たちに向けて、学校の代わりとなる場所です。
フリースクールも普通の学校と同様にさまざまな教育方針があり、活動内容もフリースクールごとに異なります。具体的には、学校のように授業を行うところ、個別で授業を行うところ、お子さんの自主性に沿って自由にやりたいことをやるところなどがあります。
フリースクールのメリットとしては、以下の点が挙げられます。
- プロの講師、カウンセラーのサポートを受けられる。
- 同じような境遇の仲間と出会える、居場所ができる。
- 学校にいかなくても、勉強ができる。
一方で、フリースクールのデメリットとしては、以下のような点があります。
- 経済的な負担が増える。
- フリースクールだけでは大学入学資格は得られない。
- 大学進学を考えると、学習内容が不十分な場合も。
特に「フリースクールだけでは大学入学資格は得られない」点には注意が必要です。大学進学を目指す際は、フリースクールだけではなく、並行して通信制高校に通う、あるいは、高卒認定資格の取得を目指しましょう。
※フリースクールごとに対象学齢が異なりますので前もって調べておくといいでしょう。
不登校からの大学受験に向けた勉強の3つの注意点
お子さんにとって、不登校から大学受験を目指すのは大変なことでしょう。
不登校を経験していると、勉強も遅れがちになってしまったり、勉強のやり方を忘れてしまっている場合も多いと思われます。
ここからは、不登校のお子さんが大学進学を目指す際に意識するべきことを3つ紹介します。
①できることから始める
勉強が苦手なお子さんによくあるのが、いきなり難しい問題に挑戦しようとしたり、長時間勉強しようとすることです。しかし、急に高いハードルに挑戦しようとしても、継続が難しくなってしまいます。
まずは「机に座って教科書を読むだけ」などお子さんにとって簡単なことから始めるようにしましょう。
②勉強をスモールステップで進める
勉強をスモールステップで進めることも大切です。
できることや得意なことから始めていき、少しずつ難易度をあげていくように心がけましょう。また、勉強時間も徐々に増やしていくことが継続して勉強するためのコツです。
ポイント③気軽に相談できる人を見つける
不登校のお子さんにとって、気軽に相談できる相手を見つけることは重要です。勉強面や、日常生活それぞれについて相談できるのが理想です。
フリースクールの中には、プロの講師やカウンセラーなどのサポートを受けることができるところも多いです。周りにあまり相談できる相手がいないという方はフリースクールの利用も検討してみるといいでしょう。
▶フリースクールとは?基本情報から学費・進学可否まで幅広く解説
不登校のお子さんのために保護者ができること
不登校から大学進学を目指すことは簡単ではありません。そんなお子さんのために、保護者ができることをご紹介します。
正しい情報を集める
不登校になると、学校側とのコミュニケーション機会が減り、得られる情報が少なくなります。
しかし、大学受験を成功させるためには、正しい情報を集めることが必要不可欠です。「どんな大学があるのか」「大学受験ではどんな試験が行われるのか」「どうやって対策すればいいのか」など、正確な情報を得られるように、意識して情報収集することが重要です。
必要に応じて専門家に相談する
不登校や受験の悩みを親子だけで解決するのは難しいため、専門家への相談も早めに検討しましょう。たとえば、担任の先生、スクールカウンセラー、地域の相談窓口、民間の支援団体など、サポートを受けられる場所はたくさんあります。
お子さんの気持ちに寄り添う
一番大切なのはお子さんの気持ちに寄り添うことです。「ほんとうに大学に行きたいと思っているのか」「大学ではどんなことをしたいか」「勉強などで困っていることはないか」など、普段から親子できちんとコミュニケーションを取り、お子さんのやりたいことを実現できるように寄り添ってあげましょう。
まとめ
今回は不登校のお子さんが大学受験する際のポイントや注意点について詳しく解説しました。
大学に入学するためには以下どれかを満たす必要があります。
- 高等学校(以下、高校)または中等教育学校の卒業
- 高等学校卒業程度認定試験(以下、高卒認定)の取得
- その他の資格
上記の資格を得るための方法はたくさんあります。不登校であっても大学進学することは可能ですので、お子さんの性格や状況に合った方法を探してみてください。
ツナグバでは、不登校のお子さんを持つ保護者の方向けにオンラインで相談可能なQ&Aサービスなども運営しています。
会員登録だけで簡単に使うことができますので、ぜひ利用してみてください。
【出典一覧】
*1 文部科学大臣指定専修学校高等課程一覧
参考箇所:【資格③】その他の資格
*2 入学資格に関するQ&A
参考箇所:【資格③】その他の資格